間もなく嵐が発生か
火星では時折、局地的な砂嵐がいくつも合わさり、全球的な現象になる。「火星全体の風の吹き方は、地球によく似ています。ジェット気流と、大規模な流れのパターンです」とシャーリー氏。「大抵の場合、砂嵐は温度が上がる夏に南半球で始まります。塵が十分な高さまで持ち上げられると、風の流れに乗って別の地域に運ばれます」(参考記事:「火星の砂嵐シーズン」)
仮に複数の砂嵐が起これば、塵による煙霧は赤道を超えて広がり、北半球に入り込む。そして、遂には火星全体を包み込むまでになり得る。
だが、このような全球規模の砂嵐は毎年起こるわけではないため、科学者たちはパターンを見つけ出そうと苦心している。1924年以降に9回発生しており、直近の5回は1977年、1982年、1994年、2001年、2007年だった。
これについて、シャーリー氏は天体力学に基づいた有力な説を出している。軌道上を周回する火星の運動量は他の惑星から影響を受けており、その影響の大きさは一定の周期で変動する。
この点を考慮し、シャーリー氏は砂嵐シーズンの初めに火星の運動量が増加していると、全球規模の砂嵐が起こる傾向にあることを突き止めた。この説が正しければ、火星では今後数週間から数カ月以内に、全球を覆う砂嵐が起こることになる。
「砂嵐が今日から始まっても全く驚きません」とシャーリー氏。
科学者たちの熱い期待
スキアパレッリが安全にかつ無傷で着陸できていれば、その後は火星での2~8日間を気象観測に費やす。スキアパレッリは、砂嵐が生み出す電場を計測するための特殊な機器を積んでいることから、この段階では砂嵐も歓迎すべき客と言える。着陸機の動力源は内蔵電池なので、ソーラーパネルが塵で覆われるのを心配する必要はない。
砂嵐で電気現象が起こることは従来から知られていたものの、火星では1990年代後半のパスファインダー計画で初めて観測された。科学者たちは、砂嵐の季節ではないのに火星の大気中に大量の塵が含まれていることを発見。間もなく判明した「犯人」は、ダストデビルと呼ばれる塵旋風だった。(参考記事:「火星のつむじ風」)
NASAゴダード宇宙飛行センターの物理学者ウィリアム・ファレル氏は、「明らかなのは、特に塵旋風の一番下で粒子がかき回されているということです」と話す。「小さな粒子は負の電荷を、重い粒子は正の電荷を帯びる傾向にあるということが分かりました」
火山の噴煙口の中と同様に、塵旋風の中では負の電荷を帯びた小さな粒子が垂直方向の風によって高く吹き上げられる。一方、正の電荷を帯びた粒子は低い高度にとどまる。「塵旋風の内部で、実際に大規模な電場を作り出せます」と、ファレル氏は話す。
ファレル氏によれば、火星で起こる大きな砂嵐の中でも電場は生じているかもしれないが、他の条件によって緩和されている可能性があるという。
宇宙船を着陸予定地に誘導し、スピードを落としながら無事に火星表面に着陸させるのは容易ではない。(解説は英語です)
地球上であれば、雷雲の中に電荷が蓄積され、限界を超えると放電が起きる。だが研究室でのシミュレーションでは、火星のように大気が薄い場合、過剰な帯電が起こりにくいとファレル氏は話す。
この現象を研究する機器を火星に送ろうと、ファレル氏は他の科学者たちと共に15年もロビー活動を続けてきたという。それだけに、エクソマーズの着陸機は、世界の火星研究者たちの関心を一層かき立てている。
「この問題の解明にスキアパレッリがいくらかでも貢献するよう、心から応援しています」とファレル氏は話している。
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