火山の噴火で命を落とさないために
ヤスクルスカ氏は、論文のほかの点にも反論している。例えば、論文では下肢が上肢よりも先に消滅したとされているが、脚の方が手よりも軟組織が多いため、蒸発に時間がかかるはずだと、ヤスクルスカ氏は考える。それに、急激な高熱でこれらの軟組織が蒸発したのであれば、骨の損傷ももっと激しくなっていたはずだという。
頭骨に関しては、そもそも爆発できるものなのかという疑問を呈する。火葬された頭骨には、熱のためと思われる亀裂が入ることはあるが、激しく爆発して破片が飛び散るなどということは起こらない。ヤスクルスカ氏は、ヘルクラネウムの頭骨がただ単に何かに押しつぶされただけと考える方が説得力があるという。
どこも傷ついていない頭骨でも、重い堆積物の下敷きになれば押しつぶされることがある。「どんな考古学者だって、そう言うでしょう」
ヤスクルスカ氏は、熱損傷がなかったと言っているのでも、それが死因であるはずがないと言っているのでもない。ただ、それがヘルクラネウムの人々の主な死因であるという確たる証拠がまだないと言っているのだ。高温のせいでヘモグロビンが破壊されたのが事実だとしても、人々が窒息やほかの原因で死んだ後に火砕サージで損壊したということもありうる。
1947年のナショジオの写真。メキシコのラ・ベンタでオルメカ文明の巨大な石頭を調査する考古学者たちをとらえている。オルメカ文明はメソアメリカ最初の文明であり、一帯の発展に関する貴重な手がかりの宝庫だ。
現代の火山噴火が、この論争決着にヒントを与えてくれるだろうか。米コンコード大学の火山学者ジェニーン・クリップナー氏は、火砕流と火砕サージは現代でも起こるが、それが必ずしも苦痛のない即死を保証するわけではないという。速度、温度、灰の量、ガスの量などによって結果は変わってくる。内容物の密度があまり高くなければ、それほど重傷を負うことなく生存できる可能性もある。(参考記事:「だから火山研究は面白い」))
だが、ベスビオ火山の犠牲者と同じ運命をたどりたくなければ、「灰色の雲が向かってくるのが見えたら、とにかく走って逃げて」と、クリップナー氏は警告する。
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