ポンペイで見つかった人骨は、多くが完全な状態で保存されていた。骨の損傷具合と様々な金属の溶け具合から、ペトローネ氏の研究チームは、多くの人が300度程度の火砕サージに襲われ、高温のサーマルショックにより即死したと考えた。
ポンペイよりも火口に近いヘルクラネウムとその近郊のオプロンティスでは、被害はもっと深刻だった。ここで見つかった犠牲者たちの骨は熱によって破砕し、DNAは完全に破壊されていた。おまけに、頭骨は爆発したかのように砕けている。ペトローネ氏らは、ヘルクラネウムの方がより高温の500~600度もの火砕サージに襲われたため、脳の髄液も含め体内の液体が突然沸騰し、死に至ったのではないかと考えている。
そもそも体は沸騰し頭骨は爆発するのか
最新の論文には、このゾッとするような仮説を裏付ける新たな証拠が提示されている。ヘルクラネウムの複数の人骨で見つかった赤黒い残留物を化学分析にかけたところ、犠牲者の血液と体液由来と思われる鉄と酸化鉄が多く含まれていることがわかった。
これらの物質は、赤血球に含まれるヘモグロビンが分解されるときに形成された可能性がある。ペトローネ氏は、激しい熱にさらされればそのような現象が起こり得ただろうと指摘する。高温の熱はさらに骨も破砕し、「10分と経たないうちに軟組織は完全に蒸発し、頭骨の爆発を引き起こしたのでしょう」という。
このほか、ポンペイの犠牲者のほとんどが、体が完全にねじ曲がった状態で見つかっているが、これは高温にさらされて筋肉が急速に収縮したことを示しているという。一方、ヘルクラネウムでも同じように手足に筋肉の収縮が見られる人骨もあるが、そうでないものも多い。この現象について最新の論文では、一部の筋肉は収縮する前に極度の熱で破壊されてしまったためとしている。
赤黒い残留物が赤血球の破壊で形成されたという主張に関して、ヤスクルスカ氏は確かにそれを支持する別の法医学的証拠も一部にはあるとしつつも、論文に寄せた同氏のコメントからは、完全には納得していないことがうかがえる。
ヤスクルスカ氏によると、皮膚や筋肉、脂肪が高温で蒸発しなくても赤血球の破壊は起こりうるし、ヘルクラネウムの犠牲者の軟組織が本当に高温で蒸発してしまったのかははっきりしない。(参考記事:「2000年前の美女の肖像を復元、ベスビオ火山で埋没」)
人間の遺体を火葬するとどうなるかを知れば、理解しやすいだろう。現代の火葬炉は、温度が1000度に達する。
「この条件では、軟組織は燃えるだけで、蒸発まではしません」と、ヤスクルスカ氏は言う。
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