本物かどうか疑われ、のちに実際に数々の偽写真に使われるようになるホホジロザメの写真。撮影者のトム・ペシャック氏いわく、「研究者がサメを追うのではなく、サメに追われる研究者」(PHOTOGRAPH BY THOMAS P. PESCHAK)
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 2017年、米テキサス州を襲った大型ハリケーン・ハービーにより、浸水したヒューストンの町をサメが泳いでいる写真がツイッターに投稿され、瞬く間に拡散された。同じ頃、ナショナル ジオグラフィックの写真家トマス・ペシャック氏のもとに、「また例のやつだよ」と書かれた1通のメールが届いていた。(参考記事:「大型ハリケーン「ハービー」被害の記録 写真29点」

 そのホホジロザメのことを、ペシャック氏はよく覚えていた。15年前に、南アフリカで明るい黄色のカヤックに乗っていた科学者のトレイ・スノー氏の後をつけていたサメだったのだ。ペシャック氏が撮影したこの写真のサメを、人々は切り取って自分の写真に貼り付けて編集し、偽の写真を作成していた。ヒューストンを泳ぐサメも、そんな偽写真のひとつだった。(参考記事:「動物大図鑑 ホホジロザメ」

 人の目を引き付ける写真というのは多くの場合がそうだが、ペシャック氏の元の写真もまた、創造性、忍耐、そして幸運な偶然が重なった結果撮影に成功したものだ。

 2003年、ホワイトシャーク財団の海洋科学者マイケル・ショール氏から、南アフリカ南端の海岸付近に尋常ではない数のサメの大群がいるとの知らせを受けた。

 ペシャック氏は、ショール氏とともに調査船でサメを追跡しようとしたが、エンジンの音をサメが警戒し、普段通りの行動を示さなかった。その時、ペシャック氏は購入したばかりのシーカヤックを使ってみてはどうかと思いついた。これなら船よりも静かなので、サメを脅かすことなく追跡できるかもしれない。

「私のお粗末なアイデアだったので、最初に私が試してみることになりました」

やってきた奇跡の瞬間

 作戦はうまくいった。「GPSを取り付けたカヤックで、浅瀬でもサメを追うことができ、自然な行動を観察できました。そうとわかると、自分の中にある写真家魂が頭をもたげてきました」(参考記事:「眼前で激写! 人懐こいクジラのすむ海、メキシコ」

ギャラリー:恐ろしくも美しきサメ、10選(画像クリックでギャラリーページへ)
ジョーズ 大きな口をあけて鋭い歯を見せるホホジロザメ。人を襲うことで知られ、多くの海水浴客を恐れさせている。(PHOTOGRAPH BY DAVID DOUBILET, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

 それから数カ月の間を調査船で過ごし、もう一度カヤックを出せる穏やかな天候を待った。

 ついにその日がやってきたとき、準備は整っていた。ペシャック氏は見晴らしのいい屋根上の操舵席に体をハーネスで留め、ハーイバーイ湾(現地の言葉で『サメの入り江』という意味)でサメを追うショール氏を忍耐強く観察していた。

 良いシーンなのだが、どうも今ひとつだった。

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