薬物陽性のペルー選手、ミイラのおかげでW杯出場

16世紀のミイラが握っていたコカインの秘密

2018.06.29
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1999年、アルゼンチンの山頂で氷漬けになっていた10代の少女のミイラを発見した人類学者のヨハン・ラインハルト氏。少女は、500年前にインカの神々への生贄にされた。(PHOTOGRAPH BY JOHAN REINHARD, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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「唇に、コカの葉くずが残っているのが見えます。口のなかにも、葉が詰まっていました」と、ラインハルト氏。

 アンデスの先住民は、数百年前からコカを摂取してきた。現地で自然に生えているコカは高山病に効くため、高い山へ登る時、人々はコカの葉を口に入れて噛みながら登ったという。

コカイン摂取なくても陽性反応

 21世紀のサッカー選手と16世紀のミイラ。この両方から微量のベンゾイルエクゴニンが検出されたことが、ゲレーロ選手の主張を裏付けた。

 米サウスフロリダ大学の文化・環境先進研究所所長で考古学者のチャールズ・スタニッシュ氏は、ゲレーロ選手とつながりのあるブラジル人生化学者の要請を受け、証言台に立った。

 スタニッシュ氏の役割は、違法薬物としてのコカインを摂取していないのに薬物検査でコカインの陽性反応が出ることもあると証明することだった。

「一番わかりやすいのは、コカインが存在する以前の500年前のミイラからコカインの陽性反応が出た事実です」(参考記事:「世界各地のミイラ、ちょっと意外な作成法も」

 コカの葉の主な有効成分であるコカインアルカロイドが単離され、麻薬として合成されたのは、19世紀に入ってからのことである。(参考記事:「天然コカインの生合成経路が解明」

 スタニッシュ氏はさらに、人類学的見地からも、コカの葉が今でも南米文化に根付いていると説明した。

「コカ茶は、コカの葉だけで飲用されることはめったにないと説明しました。ほとんどの場合、茶葉の味を覆い隠すために多量の砂糖が入れられます。ペルーの首都リマでは、今や流行りのグルメ料理の一部になっているんです」。パンからキャンディまで、コカの葉はあらゆるものに入れられているという。

 コカ茶を飲んだという人が薬物検査で陽性になったのは、ゲレーロ選手が初めてではない。パイロットから旅行者まで、一見したところただの観光目的でペルーを訪れた後、薬物摂取を疑われた人はほかにもいる。スタニッシュ氏は、コカに対する大きな文化的誤解を表す出来事だと感じている。

 最終的にスイス連邦裁判所は、ゲレーロ選手の出場停止処分を一時的に解除し、ワールドカップ出場を認める裁定を下した。FIFAは、引き続き本件について再検討を行う予定だ。

文=Sarah Gibbens/訳=ルーバー荒井ハンナ

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