100万個のクローンでシミュレーション

 BZ509が宇宙の変わり者だということには、誰も異論はない。

 ナムニ氏とモライス氏がこの小惑星に注目したのは、太陽の周囲を逆に回っているだけではなく、軌道が木星のそれとほぼ同じだからでもある。太陽系最大の惑星とチキンレースを繰り広げていることがわかった天体は、これが初めてだ。軌道が綱渡りのような動きをしているおかげで、BZ509は維持されている。木星は、12年かかる公転の間にBZ509を重力で2度強く引っ張るが、この2回が互いに相殺して小惑星を安定させている。

「でこぼこ道を走るトラックのようなものです。こぶにぶつかると、また別のこぶにぶつかり、はね返って本来の進路に戻るのに似ています」と話すのは、カナダ、アサバスカ大学の天文学者マーティン・コナーズ氏だ。コナーズ氏は今回の研究には参加していない。

 コナーズ氏と同僚の研究者たちは2017年、コンピューター・シミュレーションを使い、BZ509の軌道は過去100万年にわたって安定していたと明らかにした。この発見に、ナムニ氏とモライス氏は驚いた。それ以前に2人が行った研究で、BZ509のような軌道は1万年程度しかもたないことが示唆されていたからだ。

 これらの結果からさらに解明を進めようと、ナムニ氏とモライス氏は、太陽系のモデルを現在の配置で作成。次いで、BZ509の仮想の「クローン」を100万個散りばめ、いずれも、観察されているBZ509の軌道をわずかに変化させた軌道にした。そしてシミュレーションを開始し、45億年に相当する時間を経過させた。

 クローンの多くはやがて太陽と衝突したり、太陽系からはじき出されたりした。半分は700万年未満しか持たなかったが、クローンのうち46個は、太陽系の一生を通じて安定し、27個はBZ509の現在の軌道にかなり近くなった。

大双眼望遠鏡天文台(LBTO)から見た小惑星2015 BZ509(黄色の円で囲まれた点)。これらの画像が、BZ509が木星とほぼ同じ軌道を逆行していることを確定するのに役立った。(PHOTOGRAPH BY C. VEILLET, LARGE BINOCULAR TELESCOPE OBSERVATORY)
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 ナムニ氏とモライス氏は、BZ509は統計的に計算すると45億年にわたって非常に安定した軌道にいたはずと主張する。しかし、BZ509が太陽系の初期から太陽の周囲を回っているとしたら、なぜ逆方向に公転するようになったのだろうか? 考えられるさまざまな可能性を検討した結果、2人はこの天体が「太陽系外からの侵入者だから」という結論に至った。

「この小惑星の考えうる起源について、先入観は一切ありませんでした」とナムニ氏。「この結果には大変驚きました」

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