米中協力が崩壊、世界はどこへ向かう?

 パリ協定のそもそもの実現には、米中のリーダーたちが重要な役割を果たしていた。オバマ大統領と習近平国家主席が2014年に発表した気候変動に関する共同声明は「重大な分岐点」だったと、環境シンクタンク、世界資源研究所の上級研究員アンドリュー・ライト氏はいう。「あの両国があそこまで積極的に、また公に協力しているのを見たのは初めてでした」

 その協力関係が事実上崩れようとしている今、他の諸外国はこの先どちらの方向へ進むのかという疑問が当然出てくる。トランプ大統領が化石燃料の推進に公然と興味を示したことで、サウジアラビアの石油大臣は既に、米国への石油関連投資を拡大するかもしれないと発言した。ライト氏はこれに関して、トランプ大統領のせいでパリ協定の目標が形骸化してしまいかねない一例だと懸念する。しかし、「中国が方針を変えることなく、パリ協定で定められた目標を守り通す意思を示すことができれば、大きな助けになるでしょう」ともいう。(参考記事:「日本は後ろ向き? 各国の温暖化ガス対策を採点」

 ところが、中国は自国の石炭火力発電所の建設こそ取りやめたものの、東南アジアなどでの新規建設には資金を出し続けている。以前は、投資を控えるよう米国から圧力があったが、今はそれもなくなろうとしており、ライト氏は「空席となった主導国の座に中国が本気で着こうとしていても…これで一貫性を保てるのでしょうか」と疑問を呈している。

2015年11月、パリの国連気候変動会議で気候政策について会談するバラク・オバマ大統領と習近平国家主席。ここで歴史的な合意が生まれたが、今後どうなるかはわからない。(PHOTOGRAPH BY STEPHEN CROWLEY, THE NEW YORK TIMES, REDUX)
[画像をタップでギャラリー表示]

 米国はさらに、各国の削減目標達成への過程を監視する際、説明責任と透明性を高めるよう主張していたが、ライト氏は、パリ協定の交渉者たちがその点に関して「多くの課題を残したままにしてしまいました」と指摘する。

「協定を快く思わない一部の勢力が結託するなどして、説明責任に関する規定を逆に弱めようとするのではないか懸念しています。これまで厳しい説明責任を追求してきた米国の役割を、中国がどこまで担うつもりなのかわかりません」

 クリーンエネルギーを推進する非営利団体ロッキー・マウンテン研究所の最高経営責任者ジュールス・コーテンホースト氏は、温室効果ガスの削減目標を拒否するという決定は、米国にとってその字面以上に重い意味を持つと語る。「人類が直面する最大の問題に関して、米国は指導的役割を放棄することになります」そして、その役割を中国やその他の国へ明け渡そうとしている。「一度そのような決断をしたらもう元には戻れません」(参考記事:「IT長者らがクリーンエネルギー巨額支援、COP21」

ビジネスチャンスを逃す米国

 気候変動に関する政策がどうであれ、再生可能エネルギーは、価格が急上昇することもある化石燃料への緩衝材となり、また回復力のある電力網を構築し、大気もきれいにとして注目が集まっている。ブルームバーグ・ニュー・エネルギー・ファイナンスによると、2040年までに世界で8兆ドル近くが再生可能エネルギーに投資される見通しだ。

 米国も、その市場シェア獲得に奔走している。インドが太陽光発電用機材の地元調達率を確保するために輸入規制を設けようとした際には、世界貿易機関へ訴えて勝訴した。インドでは、2022年までに新たに太陽光発電を100ギガワットまで拡大することを目標としているが、これは現在の米国の3倍近い容量にあたる。太陽光エネルギー関連の企業にとっては大きなビジネスチャンスになる。

 米国企業にとって、インドなどの国外市場は国内市場よりもはるかに大きい。「パリ協定に背を向けるということが、それら全てに背を向けるということになれば、米国は自分で自分の競争力を損ない、今は順調に事業を行っている多くの国内産業を損なうことになるのは確実です。国内のことにしか目を向けていないとしたら、きわめて短絡的な考えです」と、ライト氏。

 ここでもおこぼれにあずかるのは、世界有数の風力発電と太陽光発電の製造工場を有する中国だろう。コーテンホースト氏は警告する。「再生可能エネルギーへの移行から米国が手を引くなら、空から降ってきた市場機会を、中国がこれ幸いとさらっていくでしょう」(参考記事:「中国CO2削減の意気込み、衛星写真で見えた」

文=Christina Nunez/訳=ルーバー荒井ハンナ