「消えゆく湖」アラル海に魚と人が戻ってきた

「史上最悪の環境破壊」の一部、漁獲高ゼロがいまは8000トンに

2018.03.26
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 だが、良いことばかりではない。魚の繁殖期にあたる5月から7月に、密漁が多発するようになったというのだ。アラリスク出身の漁師アルダンベク・ケリノフさんは、禁漁期間は魚たちが湖岸の近くへやってきて産卵するため、魚がよく捕れる時期でもあると説明する。ケリノフさんは、以前はタクシー運転手をしていたが、7年前から兄弟たちと一緒にフルタイムで漁師をしている。

「昼間は検査官の目があるので、夜間に漁に出る人が多いです。ここにはほかに仕事もなく、漁が主な収入源なので、禁漁期間など関係なく漁に出る人が後を絶ちません」

「息子は結婚して、漁を続けていくでしょう」

 キディルバイさんにとって、湖は常に予測がつかない自然の力であった。1987年、アラル海は思ったよりも早く、11月初めに凍り始めた。そのため、家族が所有する漁船は岸から300メートル離れた湖上で動けなくなってしまった。キディルバイさんの父親は、まだ薄い氷が割れる恐れがあるので、自分の体にロープを括り付け、湖岸から漁船までソロソロと歩いて行った。当時15歳だったキディルバイさんが見守るなか、父親は鉄の斧で船の周りの氷を砕き、無事に船を岸まで引いて戻ってきた。(参考記事:「海に沈む、干上がる――漁港の街の悲しき今」

 5年後、キディルバイさんに運は味方してくれなかった。夏に友人と一緒に漁に出ていたところ、嵐に遭い、船が転覆して友人の命が奪われた。この事故にひどく衝撃を受けたキディルバイさんは、その後3年間漁に出られなかったという。

 繁殖期に漁に出るのは確かによくないと、キディルバイさんは言う。だが、貧困と厳しい生活に何十年も苦しめられてきた人々は、豊かな生活を求めて必死なのだという。「今では、みんなどうやってできるだけ多くの金を稼ぐかということばかり考えています」

 アラル海へのキディルバイさんの思い入れは変わらない。他へ移住するなど、想像もつかない。淡水魚が戻ってきたことで、息子の将来もここにあると固く信じている。

「アラル海は私たちにとって命の源です。来年、息子のために家を建てようと思っています。息子は結婚して、漁を続けていくでしょう」

【もっと見る】「消えかけた湖」アラル海に魚と人が戻ってきた 写真10点(写真クリックでギャラリーへ)
厳しい寒さのなかでの漁は大変な作業だが、稼ぎは良い。(PHOTOGRAPH BY TAYLOR WEIDMAN)
厳しい寒さのなかでの漁は大変な作業だが、稼ぎは良い。(PHOTOGRAPH BY TAYLOR WEIDMAN)

【この記事の写真をもっと見る】ギャラリー:「消えかけた湖」アラル海に魚と人が戻ってきた 写真あと7点」

文=Dene-Hern Chen/写真=Taylor Weidman/訳=ルーバー荒井ハンナ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加