米スペースX社のイーロン・マスク氏は2月27日、2018年後半までに2人の民間人を乗せて月への有人飛行を実施すると発表した。この計画は、旅行者側からスペースX社に持ちかけたもので、既に巨額の手付金を支払い済みだという。
打ち上げには、米フロリダ州ケープ・カナベラルにあるNASAケネディ宇宙センターの発射台39Aを使用する。40年以上前のアポロ計画でも使われた発射台だ。アポロの宇宙飛行士は月面に降り立ったが、スペースXの乗客は月に直接降りる予定はなく、その周囲を回って地球へ戻ってくる。(参考記事:「16歳の少年が撮ったドラマチックなロケット打ち上げ写真」)
スペースX社は、「45年ぶりに人類がより遠い宇宙へ戻る絶好の機会となるでしょう。これまでよりも速く、太陽系の奥深くまで旅することが可能になります」と声明で述べた。
打ち上げ目標は2018年に定められたが、実現には効率的な技術開発と確実な資金を必要とする。いつ、どうやって実行するとしても、人類を再び月へ送り出すというのは期待に胸が膨らむ話だ。
誰が行くのか?
搭乗者の正体はまだ明かされていない。マスク氏は、2人の民間人であるとだけ言い、それ以上の詳細については触れようとしなかった。AP通信によると、2人は互いをよく知っている間柄だというが、これは結構なことだろう。狭い宇宙船内に2人で1週間押し込められるのは、どんなに最高の状況であろうと大変に違いない。
どうやって行くのか?
現時点の計画では、スペースX社の宇宙船「ドラゴン」の次世代バージョンを使うことになっている。ドラゴン宇宙船は、国際宇宙ステーションへ物資を運ぶ無人機として既に実用化されている。(参考記事:「ドラゴン、ISSへ初の正式な物資輸送」)
次世代のドラゴン2宇宙船は、人間を乗せて自律的に飛行する計画だが、今はまだ設計と試験の段階にある。スペースX社は、今年後半にはドラゴン2の試験飛行を実施し、2018年半ばには人間を乗せて国際宇宙ステーションへ到達したいと考えている。
それらが全て順調に行けば、2018年後半には月への飛行を実現できる。地球の軌道を抜けた後、ドラゴン2は月を周回して、その先の宇宙を垣間見た後地球へ戻ってくる。同社の旅行計画によると、宇宙滞在期間は約1週間、飛行距離はマイレージクラブも驚きの64万キロになる。
しかし、スペースX社が計画する期日は守られないことも多く、一部にはマスク氏の言葉通りには進まないだろうという見方もある。また、宇宙船をどうやって打ち上げるのかという問題もある。人間が乗った、重いドラゴン2宇宙船を打ち上げるには、同社のロケット「ファルコン・ヘビー」が必要となるが、こちらもまだ開発段階で、過去数年間で完成予定日を何度も延期している。
月への飛行実績は?
スペースX社の月への飛行実績はまだない。ただ、2012年から国際宇宙ステーションへの物資の運搬を行っている。またマスク氏は、近い将来火星への有人飛行を実現させるという野心的な計画も明らかにしている。(参考記事:「米スペースX、壮大な火星移住計画を発表」)
2018年後半に月への有人飛行を達成できれば、1972年のアポロ17号以来初の人類による月訪問となる。
民間人の宇宙飛行にはどんな訓練が必要?
現時点ではまだはっきりしていないが、マスク氏が2人の名前を明かすことができない理由のひとつに、健康診断や訓練が一通り完了しなければ宇宙へ行けないという問題がある。
国際宇宙ステーションへ行く宇宙飛行士たちは並外れた体力を持ち、数々の身体検査と厳しい訓練をくぐり抜けている。例えば微小重力の状態に慣れるため、水中施設での訓練など、様々なシミュレーション訓練がある。(参考記事:「星出宇宙飛行士ら、地底800mの洞窟で訓練」)
NASAの見解は?
NASAは公式声明の中で、「宇宙産業のパートナーがより高い目標に向かって進んでいることを歓迎したい」と述べている。そして官民協力が拡大すれば、NASAとしても「月よりも遠くへ行ける次世代のロケットや宇宙船、装置の開発に集中し、より遠い宇宙を目指すことができる」と、期待を見せる。(参考記事:「世界初の民間商用宇宙船開発に携った日本人」)
マスク氏は、NASAとの協力関係を優先させたいとして、NASAが望むなら、ドラゴン2の月への初飛行は民間人ではなくNASAの宇宙飛行士に譲ってもいいと話している。
失敗する危険性は?
大いにありうる。宇宙へ行くのは大変なことなのだ。
ロケットの爆発や生命維持装置の故障など、様々なケースが考えられる。あり合わせの材料で切り抜けることだってあるだろう。大気圏へ突入するのも簡単なことではない。だが、これらは技術的な問題に過ぎない。
宇宙探査に伴う対人関係や心理的な問題も、盛んに研究が行われている分野だ。いったん打ち上げられてしまったら、ウマの合わない乗組員を宇宙船から追い出すことは許されない。
しかし、こうした数々の障害にも関わらず、巨額の旅費を支払ってでも月に行ってみたいと意欲を燃やす人間が、この地球上に少なくとも2人はいるということだ。月旅行の切符がいくらするのかはまだ明らかにされていないが、マスク氏によると国際宇宙ステーションへの旅費と同程度だという。過去に宇宙ステーションを訪れたことのある旅行者は、2000万~4000万ドルを支払っている。