――薄氷の上でスケートするためにどのような準備をしますか。
朝起きて「今日はいい日だからスケートに行こう」というわけにはいきません。もっとずっと複雑です。
実際、数学が大きく関係してきます。気温、大気の状態など、様々な要素を考慮します。湖が凍り付くほど水温が下がるまでどれくらいの時間がかかるのか。また、衛星写真を見て、湖面の滑らかさを確かめ、滑ることが可能かどうかを決めます。
――他に、どんな人が薄氷でスケートしていますか。
エンジニア、地図製作者、私のような数学者がかなりいます。あと、医者も割と多いんですよ。
――競争的な要素はありますか。
親善的な競争はありますが、選手権とかオリンピックがあるわけではありません。毎年、誰もが先を争って氷に一番乗りしようとしたり、最高の滑走場所を探そうとします。また、冒険に挑戦しようとする人もいますね。
非営利団体もあって、ウェブサイトSkridsko.net(skridskoはスケートという意味)で情報を共有しています。利用者が写真を投稿したり、ちょっとしたソーシャルメディアのプラットフォームのようになっていますが、氷に関する豊富な情報もあります。北欧諸国やオランダ、北米からのスケーターもいます。多くの人に、ノルディック・スケートの魅力を知ってもらいたいと思っています。ただでさえ難しいのですから。(参考記事:「氷に覆われてるのに「グリーンランド」、なぜ?」)
――なぜ、氷が薄いとレーザーのようにきれいな音が出るのでしょうか。
動画の中の音は、薄氷の上をスケートで滑った時に出る音です。特徴的なよく響く音色と、ひび割れを通過した時に出る音があります。
外気が冷たくても、薄氷はその下の水によって温度が一定に保たれているため、伸縮することがありません。温度変化の幅が小さい状態です。
薄氷の奏でる音はよく響き、すぐ近くで聞く(録音する)ととても美しく聞こえます。逆に、わかりやすく言えば、音は氷の厚さに関係しているということです。氷が薄ければ薄いほど、音は高くなります。面白いことに、氷は高い「ド」の音で割れようとします。オペラでいえば、プッチーニの『トゥーランドット』にも出てくるソプラノ歌手の出す最も高い音がそれにあたります。
――そこまでノルディック・スケートに魅了される理由は何でしょう。
滑走できる場所を探し、パターンを理解すること。その湖をよく調べて、様々な違う側面を見極めるというところに魅力を感じます。
難易度の高いことに挑戦すると、充足感が得られます。たとえ失敗しても、そこから学んでまた挑戦しようと思います。