――理想的な氷の状態とは。
最も理想的な状態は、手つかずの薄氷です。湖面が凍結し始めたばかりで、スケーターの体重を支えるのに十分な厚さまで成長した氷です。天候が味方してくれれば、氷が張ってから2日ほどでその状態になります。
厚みの最低限度は5センチほどですが、岸に近ければ、3.5センチくらいまでは割れずに持ちこたえられるでしょう。これは、淡水の場合です。塩分を含む汽水域ではもう少し厚みが必要で、判断が難しくなります。(参考記事:「諏訪湖の御神渡り600年の記録が伝える気候変動」)
――なぜスケートで薄い氷の上を滑っても割れないのでしょうか。
すぐに割れるんじゃないかと思うでしょう。でも割れないのは、その下に水があるからです。
古代ローマのアーチやドームを考えてみてください。あれは、両脇部分が上の部分を支えていますが、氷でもほぼ同じことです。あまり薄いと危険ですが、計算するとなるとかなりややこしいので、やめておきましょう。
――本当に安全かどうかわかっているんですか。
経験を積めば積むほどわかるようになりますが、100%安全だとは言いきれないでしょうね。まれに、湖に落ちてしまうこともあります。
でも、いつも安全のため複数人で出かけます。割と社交的なスポーツなんですよ。
――水に落ちたときどんな感じですか。
水に落ちる事故は年間数百件起きていますが、ほとんどの人はすぐに水から上がることができます。そのまま家に帰って乾かしておしまいです。怪我をしたり、ひとりでいる時に落ちてしまうと大変ですが、そんなことはめったにありません。
――なぜもっと安全で厚い氷の上で滑らないのですか。
厚い氷は、舗装道路のようであまり面白味を感じません。厚くなりすぎれば、弾力性がなくなり、音もしません。ひびが入れば、気温の上昇とともに膨張し、その部分が盛り上がってしまいます。そして、いずれは雪が積もってスケートが楽しめなくなりますし、見た目もそれほど魅力的ではありません。