顎がたわむのがまる見え
「私は昆虫における高速の動きを研究しています」と話すのは、英国リンカーン大学の生物学者、グレゴリー・サットン氏だ。「普段はジャンプの研究をしているので、このアリの研究は大変面白いと思っていますし、自分の研究にとっても重要だと考えています」(参考記事:「0.00012秒の瞬時に閉じるクモのアゴの謎を解明」)
サットン氏によると、何よりも面白いのは、ドラキュラアリの顎がたわむのが見えるので、どこにエネルギーが蓄積されるかがはっきりとわかることだという。「多くの場合、体内に仕組みがあるために、どこに掛け金となる部分があるのかがはっきりとわからないのです」
たとえば、ノミやバッタが飛び上がる仕組みについて考えてみよう。その不思議を解き明かす鍵は、ほとんどが体の中に隠れているため、どのように動いているのかを調べるのは極めて困難だ。しかし、ドラキュラアリの場合はよく見えるところで起こっている。だからこそ、ララビー氏らは、その速さを正確に計測できた。(参考記事:「ツノガエルの舌は超高速・超粘着性」)
しかし、本当にこれが、自然界で最も速い動きなのだろうか?
でも一日天下?
サットン氏いわく、速さとは相対的なもので、最高速度から加速度まで、様々な定義の仕方があるという。菌類は驚異的なスピードで胞子を放出できるし、クラゲの刺胞細胞が毒針を発射する時間はナノ秒単位だ。さらに、一般的に最も速く移動する動物として知られるハヤブサは、重力を利用する急降下時とはいえ、時速300キロメートルをゆうに超える。(参考記事:「小鳥の超高速タップダンス、健康の指標にも?」)
「昆虫が体の一部を動かすということに関して言えば、秒速90メートル以上のもの(つまり、ドラキュラアリの顎より速いもの)は知りません」とサットン氏は話す。「私に言わせれば、どの動物が一番速いかということよりも、このようなスピードを生み出す他のメカニズムを見つけることのほうが重要です。高速を生み出す方法はいったい、どれだけあるでしょう?」(参考記事:「【動画】仰天!ヘビの0.1秒の攻撃かわすネズミ」)
いずれにせよ、そう長い間、ドラキュラアリが最速記録を保持するとは、ララビー氏は考えていない。
「たぶん、シロアリの中には、ドラキュラアリと同じくらい速いか、もっと速いものがいるでしょう」とララビー氏は言う。
「それが生物学の素晴らしいところです。私たちがほとんど何も知らない動物が、まだまだ世界にいるのです」
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