しかし、カンガルー猟に反対の立場を取る行動生態学者のマーク・ベッコフ氏は、間引き狩猟を商業利用と結びつけると、グレーゾーンが生まれてしまうと警告する。「個体数を抑えるためにやっていることだと主張していますが、彼らはそれで収入を得ているのです」

 米ニューヨーク市立大学の学部長で環境保護団体「ワイルドライフ・トラスト」の会長を務めたこともあるメアリー・パール氏は、どんな野生動物でも駆除の決定を下す前に、商業ハンターから処理業者、小売店、ツアー催行会社、それに土地や野生動物の長期的で持続可能な利用を考える人々に至るまで、全ての関係者の意見と要求を考慮すべきだと語る。

「倫理的に間引くには、持続可能な個体数を維持することを目的とし、駆除する数は最低限にとどめ、殺される動物には痛みや苦しみが最も少ない方法を採るべきです」

畜産農家にとってカンガルーは、家畜のウシやヒツジのエサや水を横取りする害獣である。(PHOTOGRAPH BY STEFAN POSTLES, REUTERS)
畜産農家にとってカンガルーは、家畜のウシやヒツジのエサや水を横取りする害獣である。(PHOTOGRAPH BY STEFAN POSTLES, REUTERS)
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ハンターに課せられたルール

 商業的なカンガルーハンターは、国が定めた行動規約による人道基準に従うことが義務付けられている。狩猟の際には、長い時間苦しむことのないよう頭部を狙って銃弾を1発だけ撃ち、その個体が死んだのを確認してから次の標的に移る。また、射撃の技能試験にも合格しなければならない。多くの生態学者は、食肉用に飼育され殺処分されるのに比べれば、野生動物を自然の環境で射殺する方が人道的であると考えている。(参考記事:「【動画】カンガルーを殴る男、動画が話題に」

 しかし、カンガルーは夜行性なので、夜の暗闇で猟をするとなると、頭部を狙って一発で仕留めるのは難しい。

 しかも猟は州監査官による任意の現場監査を受け、さらに解体処理場へ持ち込まれた際には獣医による検査が義務付けられている。カンガルー産業協会役員のジョン・ケリー氏は、これだけの要件に従わなければならない行動規約はあまりに厳しすぎると主張する。

カンガルーの個体数は干ばつの影響を受けやすい。一部の専門家は、そのために数が自然に調整されるので狩猟の必要はないと訴えるが、一方でハンターが射殺して肉や皮を売った方がカンガルーにとって人道的であり、経済的にも有益だという意見もある。(PHOTOGRAPH BY DAVID GRAY, REUTERS)
カンガルーの個体数は干ばつの影響を受けやすい。一部の専門家は、そのために数が自然に調整されるので狩猟の必要はないと訴えるが、一方でハンターが射殺して肉や皮を売った方がカンガルーにとって人道的であり、経済的にも有益だという意見もある。(PHOTOGRAPH BY DAVID GRAY, REUTERS)
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 2002年に動物福祉団体「RSCPAオーストラリア」が政府のために作成した報告書によると、監査対象になったカンガルーのうち、頭部に銃弾を受けていたのは95.9%だった。報告書は、高い確率で人道基準が守られていることを評価しているが、その一方でまだ11万頭以上が頭部以外の部分を撃たれている事実は、「商業狩猟の規模の大きさを鑑みれば、憂慮せざるを得ない」としている。

 また、報告書は、仕留めたものの死骸が放置されたままだったり、銃弾を受けたまま逃げられたり、母親が殺された後に子どもだけが残されてしまった場合は、数に含まれていないことを指摘している。政府監査官による任意の監査も定期的に行われているわけではなく、ハンターの方も監視がついていればいつもより注意深くなるので、調査結果が現実を反映しているとは限らないとも述べている。

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