とりわけ問題なのは、母親が殺された子どもの処置だ。ハンターは、腹部の育児嚢(いくじのう)に子どもが入っていると明らかにわかるメスのカンガルーを狩猟対象としないよう求められている。それでも万が一、子どものいる母親を射殺してしまった場合、子どももできるだけ早く「頭蓋底に強力な一撃を加えて」息の根を止めるように、行動規約は推奨している。か弱いカンガルーの子が、飢えや天敵、外部への露出によってゆっくりと死に至るのを防ぐためである。(参考記事:「【動画】赤ちゃんカンガルー救出、死んだ母親から」)
RSPCAオーストラリアは、「ほかのやり方と比べてこの処分法がどこまで人道的なのかは、まだ完全にはわかっていない。育児嚢に入っている子どもを最も人道的に処分する方法を、早急に研究する必要がある」としている。また、ハンターは成獣の人道的な狩猟法に関する訓練は義務付けられているものの、子どもの処分に関しては同様の訓練を受けていないことも指摘している。
約1180万ドル分のカンガルー革を輸出
ベッカム氏は2006年にカンガルー革を使ったシューズの使用を取りやめたが、その何年も前から、動物愛護団体のビバ!は使用中止を訴えていた。アディダスやナイキなどスポーツ用品メーカーへの働きかけもあって、カンガルー革の使用は減少傾向にある。
マーケットリサーチ会社のIBISワールドによると、2010年7月1日から2011年6月30日の間に、オーストラリアは約1180万ドル分のカンガルー革を輸出していたが、翌年には輸出量が半分以下の約480万ドルにまで落ち込んだ。その原因は明らかではない。
2012年に、英国に本社を置く倫理投資会社コーポラティブ・アセット・マネジメント(現ロイヤル・ロンドン・アセット・マネジメント)は、今後1年間でカンガルー革の使用を98%減らすことで、アディダスと合意したと発表した。ところがアディダスの広報担当者クリスティーナ・マイロ・ベルダ氏は、ナショナル ジオグラフィックとアメリカン大学の調査報告ワークショップに対し、アディダスはそのような約束に同意しておらず、同社の最高級スパイクは全てカンガルー革を使用していると語った。
「アディダスは、カンガルーの非人道的で残虐な狩猟には反対しています。そのため当社の取引企業には、カンガルー猟に関してオーストラリア政府が定める厳格な規制を完全に遵守するよう求めています」
ナイキの広報担当者は、カンガルーに限らずヘビやトカゲ、ワニなど希少動物の皮革の使用をここ数年間縮小しているが、「ごく一部の」サッカーシューズに関しては「高い伸縮性と強度、プレーヤーの使用感など、現在のところ人工素材では再現できない特徴」を持つカンガルー革を引き続き使用していると答えた。
デビッド・ベッカム氏の代理人へもコメントを求めたが、回答は得られなかった。