1千万年前の歯化石、「人類の起源」は言い過ぎ

ドイツで見つかった謎の霊長類化石、アフリカの猿人との類似性に異論続々

2017.10.25
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【参考動画】ヒト属の新種ホモ・ナレディ
南アフリカの狭く、深い洞窟の奥で、古人類学者リー・バーガー氏のチームが、ヒト属の新種ホモ・ナレディの化石を発見。(解説は英語です)

「人類の起源」はから騒ぎ?

 一方、ルッツ氏の論文を読んだ外部の専門家からは、今回の歯を「人類発祥の地をアフリカとする定説を覆す発見」とみなすことに反対の声が上がっている。

 まずひとつには、現生人類とヒト属、あるいはヒト上科を混同してはならないということがある。ヒト属というのは人類と、人類に最も近い絶滅した種のことを指し、ヒト上科というのはさらに広く、ヒト属、チンパンジー、ゴリラなどの類人猿を含む分類群のことだ。(参考記事:「新種のヒト属ホモ・ナレディ発見に驚きと疑問の声」「謎の人類ホモ・ナレディ、生きた年代が判明」

 数多くの化石および遺伝子的な証拠から、現生人類の起源はアフリカにあり、彼らが早ければ12万年前、おそらくは5〜8万年前にアフリカを離れたことがわかっている。エッペルスハイムの歯は、ざっとその100倍は古いものだ。もしエッペルスハイムの歯が人類の進化に何らかの関係を持っているとすれば、最初期のヒト上科がどのように生き、進化したのかを知るヒントにはなるだろう。(参考記事:「人類発祥の地は東アフリカか、南アフリカか」

 ところが、一部の専門家はさらに、この歯が本当にヒト上科に属するのかどうかということにも疑問を呈している。

 カナダ、トロント大学の古人類学者で、古人類の歯に詳しいベンス・ヴァイオラ氏は、論文で解説されている犬歯は、興味深く珍しい形状をしていると言う。しかしながら、分類するうえでより重要な臼歯を観察すると、人類との繋がりを感じさせる特徴がないと指摘している。(参考記事:「最古のヒト属化石を発見、猿人からの進化に新証拠」

「今回の件はから騒ぎと言っていいでしょう。2番目の歯(臼歯)について、論文では1番目の歯と同じ個体に属するものだと断言していますが、これにはヒト属の特徴がまったく見られませんし、さらに言えば、ヒト上科のものでもないと思います」

ヒヒよりも遠い親戚?

 今回、この件について話を聞いた専門家の多くは、臼歯はおそらくプリオピテクスに属するものだと話している。プリオピテクスとは、すでに絶滅した霊長類の原始的な仲間で、およそ1700万~700万年前にヨーロッパとアジアに生息していた種だ。

 プリオピテクスは、人類からはきわめて遠い親戚にあたる。また、複数の研究者が、このグループは旧世界ザル(オナガザル科)とヒト上科の共通祖先から(この二つが分かれる前に)分岐したと考えている。つまり現生人類は、この歯を持つ種よりも、むしろヒヒに近い仲間である可能性が高いということになる。(参考記事:「霊長類の“ミッシングリンク”を発見?」

 またルッツ氏のチームの論文でも述べられている通り、この臼歯は、プリオピテクスの仲間で、ハンガリーで発掘された顎骨で知られるアナピテクスのものによく似ていると、トロント大学の古人類学者デヴィッド・ビガン氏は指摘する。

「この臼歯は重要です。なぜならこれは、エッペルスハイムで1820年代に発掘された大腿骨は、ヒト上科ではなく、プリオピテクスの仲間に属する可能性が非常に高いという、複数の研究者が提唱している説を裏付けるものだからです」

【参考動画】人類の祖先の発掘を続けた50年
50年近くにわたり、ケニヤのトゥルカナ湖で発掘を続けるミーブ・リーキー氏は、初期人類の研究に多大な貢献をしてきた。(解説は英語です)

 ヒト属のものに似ているとされる犬歯に関しては、専門家の意見は「興味深い」から「問題外」までさまざまに分かれるが、ビガン氏に至っては、これが犬歯かどうかにも疑問を抱いている。

「この“犬歯”は、私には反芻動物の歯に見えます」とビガン氏は言う。反芻動物とは、ウシやヒツジなどの草食の哺乳動物のことだ。「奇妙な亀裂があるせいで犬歯のようにも見えますが、これは確実に犬歯ではありませんし、霊長類のものでもありません」

 ルッツ氏は、研究チームはまだ分析を始めたばかりであり、今後は高解像度X線撮影や、歯の傷み具合の分析を行い、この霊長類が何を食べていたのかを再現したいとしている。(参考記事:「南太平洋の島で謎の石器を発見、現生人類の到達前」

 ルッツ氏は言う。「できれば1、2年以内には、この歯の正体についてもっと多くのことを解明したいと考えています。必ずすばらしい成果を得られるでしょう」

文=Michael Greshko/訳=北村京子

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