胎盤持つ哺乳類に「光回復」機能がないのはなぜ?

恐竜から隠れて暗闇で暮らすうちに失ったか、洞窟魚研究が示唆

2018.10.16
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暗闇の中で

 その魚は、およそ300万年前からソマリアの洞窟に生息しているPhreatichthys andruzzii。遠い昔に洞窟の外につながる水路が絶たれ、地下の水中洞窟での生活に適応しなければならなかったため、目が退化している。(参考記事:「『退化』は進化の一環、新たな力を得た動物たち」

 白とピンクの幽霊のような見た目で、眼球があるべきところは、皮膚に覆われている。(参考記事:「洞窟の魚が目を失ったのは、省エネのためだった」

 この魚の特徴はこれだけではない。P. andruzziiは、光回復に必要な遺伝子をまだ持っているが、もはやうまく働かないようだ。

 フォークス氏の研究チームが、P. andruzziiの胚に紫外線および光回復に必要な青色光をあてて調べてみたところ、比較対照実験に用いたゼブラフィッシュ(多少は自己治癒能力がある)の胚に比べ、死亡率が高いことがわかった。また、両方の魚の個々の細胞でも実験を行った結果、ゼブラフィッシュの細胞は紫外線照射後に回復するが、P. andruzziiの細胞は回復しないこともわかった。(参考記事:「魚も薬物依存症になると判明、治療法研究に期待」

「今回の論文では、事実を示しているだけです」とフォークス氏は言う。「P. andruzziiのDNAの自己修復能力のレベルでさえ、この環境で変化しているのです」

 今回の発見と哺乳類の進化の関連について、フォークス氏は、何代にもわたり暗闇の中で過ごした結果、光回復能力を失いつつある生物が、有胎盤哺乳類以外に少なくとも1種いることが示されたと語る。

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失われた世界

 今回の論文を査読したオランダ、フローニンゲン大学の進化生物学者ルロフ・フート氏は、はるか昔に哺乳類が経験した進化の過程を、P. andruzziiが「再現」しているところなのかもしれないと言う。「現在進行中の生物学的プロセスを通して、はるかに遠い過去を垣間見るまたとないチャンスです」

 ただし、今回の研究により哺乳類の夜行性ボトルネックの間接的な証拠が1つ増えたとはいえ、有胎盤哺乳類が洞窟に生息する魚と同じプロセスで光回復能力を失ったという証拠はない、とフート氏は指摘する。

 また、イスラエル、テルアビブ大学の進化生物学者ロイ・マオール氏は、洞窟に生息する魚と哺乳類を比較することにまったく問題がないわけではないと言う。

「P. andruzziiが隔絶されていたのは300万年間ですが、問題の夜行性ボトルネックは、少なくとも1億年間の間に起きたことです。タイムスケールがまったく違います」

 マオール氏はさらに、古代の哺乳類は主に夜行性ではあったが、おそらく日光を見たこともあっただろうと述べる。つまり、洞窟に閉じ込められていたわけではない。

 しかし、最も興味深いのは、有胎盤類の祖先と同様に、有袋類の祖先も恐竜が支配する世界を生きていたにもかかわらず、現代の有袋類が光回復能力の遺伝子をまだ持っているという事実だ、とマオール氏は語る。「これはとても面白い研究テーマになります」(参考記事:「カモノハシが太古から変わらない理由」

文=JASON BITTEL/訳=牧野建志

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