シャチを脅かす亡霊、禁止された有毒化学物質

30~50年後に世界のシャチの半数が消えるかもしれない、最新研究

2018.10.02
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 デフォルジュ氏らは世界各地の351頭のシャチから検出されたPCB濃度の情報を集め、この種では最大のデータベースを作成した。そして、個体数の増加傾向とそれぞれのPCB濃度がもたらすリスクを用いて、曝露が100年間続いた場合の生存率を予測した。

 彼らは、調査対象の19の群れのうちの10個がすでに衰退していたことを発見した。特にダメージが大きかったのは、ジブラルタル海峡と英国の工業地域のそばに暮らす群れで、10頭未満しか残っていないと考えられた。また、日本、ハワイ、北東太平洋の群れもPCB濃度が高い海洋哺乳類を食べる傾向があり、危機的な状況にあった。一方、アイスランド、ノルウェー、両極周辺の高緯度地方の群れは、PCB汚染が少なく、リスクもはるかに少なかった。

 研究者たちはこの研究の限界を認めている。研究はコンピューターモデルに基づいており、シャチへの影響は、ほかの動物の研究データに基づいて推定されているからだ。

 米海洋大気局(NOAA)北西漁場科学センターの生態毒性学者ジェームズ・メアドール氏は、「すばらしい研究ですが、話を割り引いて聞く必要があります」としながらも、シャチが直面する危機の深刻さに人々の目を向けさせた点は高く評価する。

【動画】初の海中映像:亜南極の海に生息するシャチの亜種「タイプD」(解説は英語です)

複数の脅威の相互作用

 実際のところ、シャチはどんな危機に直面しているのだろう? それを理解するには、米シアトルにあるメアドール氏のオフィスからほんの数キロの太平洋北西部とピュージェット湾を見るだけでよい。

 この地域のシャチは「サザンレジデント・キラーホエールズ(southern resident killer whales:SRKW)」と呼ばれ、世界で最もよく研究されている。研究者はシャチの写真と特徴から各個体を識別し、家系を追跡して、J、K、Lという3つの群れに分けている。(参考記事:「水族館のシャチが米国で絶滅危惧種に」

 デフォルジュ氏の研究によると、ここのシャチのPCB汚染リスクは中程度であったが、19世紀に数百頭と推定されていた個体数は今やわずか74頭まで減少している。非常に大きな脅威にさらされており、この夏、ワシントン州知事は絶滅の危機を食い止めるための緊急対策本部を設置した。

 都会のシャチたちが抱える問題はしばしばニュースになっているが、なかには見るのが辛いものもある。

 今年の夏、J35(愛称ターレクア)という20歳のメスのシャチが出産したが、子どもは生後30分で死んでしまった。すると彼女は死んだ子を頭に乗せて運びはじめた。そして、この状態で17日間、1600キロも泳ぎ続けた。

 一般の人々がJ35の追悼行動を追いかけていたとき、科学者たちは飢え死にしそうなJ50という3歳のメスのシャチを監視していた。科学者たちは彼女に抗生物質を投与し、噴気孔から呼気のサンプルを採取した。サケをすりつぶして彼女に与えようとする地元住民もいたが、J50は9月中旬に姿を消した。(参考記事:「シャチの息に異例の病原体、耐性菌も、経路不明」

 さらに、9月末には、異常にやせたK25というシャチの姿も写真にとらえられている。

次ページ:「この30年で最悪の状況です」

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