水中の魚を捕らえる驚きの視覚

 なぜ今回の発見が驚くべきものであるかというと、カマキリが魚を食べたからというだけでなく、カマキリの視力では魚を捕まえること自体がとても難しいからだ。カマキリの目は、明るい日射しの中で獲物を見つけるのに適しているが、今回のカマキリが9匹のグッピーを捕まえたのは、すべて夕方の薄闇や夜の闇の中でのことだ。しかも水という「バリア」のある中で魚を捕まえるのだから、実に驚くべきことだろう。(参考記事:「実はすごい、知られざるカマキリの秘密」

 バティストン氏は次のように推測する。「カマキリの目は、人間の目とは見え方が違っていて、形や色よりも動きがよく見えます。グッピーの尾ひれは大きく、泳ぐと旗のような動きをしますから、それがカマキリの周りを動き回る虫のように見えたのかもしれません」

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カマキリは2400種以上いるとされており、その色や形は多岐にわたる。(PHOTOGRAPH BY BEVERLY JOUBERT,NATIONAL GEOGRA

 英ニューカッスル大学の神経科学者で、カマキリの視覚の専門家ジェニー・リード氏は、このカマキリに魚が見えたことに驚いた。「水中の魚が、それも夜に、カマキリの注意を引いて襲われることがあるなんて、思ってもみませんでした」。同氏は今回の研究には関与していない。

学習能力?

 また、これまでカマキリに学習能力があるとは認められていないが、何度も魚を捕まえに来るということは、実は学習能力があるのかもしれないと今回の論文は示唆している。カマキリは、池に捕まえやすい獲物がたくさんいることを覚えており、その記憶をもとに毎夜やってきていたのかもしれない。(参考記事:「ミツバチはカフェインで記憶力アップ」

 カマキリの動機が何だったのかを知ることは不可能だ、と米クリーブランド自然史博物館の昆虫学者ギャビン・スベンソン氏は第三者の立場から言う。しかし、そのような高度な認知プロセスがある可能性は排除できないという。

「昆虫は単純で画一的な生物だというのが一般的な考えです。しかし実際には、驚くほど複雑な行動をする能力があります」とスベンソン氏は話す。(参考記事:「花に擬態したカマキリの雌雄が似てない理由を解明」

 しかし、米ノースイースタン・イリノイ大学の神経生物学者でカマキリの感覚の専門家フレデリック・プレーテ氏は、このカマキリが魚を捕まえることを「学習」したわけではなく、魚を餌と認識することは極めてまれなことだと考えている。同氏は今回の研究には関与していない。

「ある視覚的な基準を満たしていれば、カマキリが小型の脊椎動物を捕まえてもおかしくありません」と同氏は言う。

 何はともあれ、コウモリやクモのような、魚を捕まえる驚くべき陸上動物の中に、カマキリも入れた方がいいだろう。(参考記事:「かわいい?コワい?だから魅力的なコウモリ写真集 16点」

 しかしながら、これはある1匹のカマキリの事例であり、どれほど一般的な行動であるかは不明だ。スベンソン氏とリード氏は、他の個体や別種のカマキリが、研究室や自然環境で魚を捕まえるかどうかを確認することが重要だと考える。

 いずれにせよ、カマキリが、これまで確認されている以上に多様な獲物を、その電光石火の鎌で捕らえていることは間違いないと、スベンソン氏。「カマキリについてわかっていることは、ほんのごく一部に過ぎない、と私は確信しています」

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