すぐれた聴覚に加え、カマキリは優秀な目も持っている。ほかの昆虫とは異なり、彼らは三次元でものを見ることができる。ただし、カマキリの立体視は人間のそれとはまったく別物だと、英ニューカッスル大学で動物行動学を研究するビベック・ニティヤナンダ氏は言う。(参考記事:「シュモクザメの立体視覚は人間並み」)
今年発表した論文においてニティヤナンダ氏のチームは、人間が映画館で使うものに似た3D眼鏡をカマキリに装着した実験を行っている。左右で異なる色をしたレンズを利用して、カマキリにふたつの映像を同時に見せ、その反応を記録した。
この実験の結果、カマキリの立体視は動きに基づいたものであることがわかった。
「人間の立体視は、風景の明るい部分と暗い部分をマッチングさせることに依存し、両目で見えるものの違いを利用して奥行きを感知しています」とニティヤナンダ氏は言う。
しかしカマキリは、背景の中で動きのある部分について距離感をつかめるという。「カマキリは獲物に飛びかかる前に、自分はじっとしたまま、獲物がどのくらい遠くにいるかを判断しなければなりません。まさにそうした目的にぴったりの機能です」(参考記事:「色覚のない敵に「派手さで警告」は通用するか?」)
カマキリが立体視できるというのは驚きだ。立体視は、霊長類など複雑な動物にとっても脳の負担が大きいタスクだからだ。しかしニューロンが約100万しかないカマキリは(人間のニューロンは約1000億)、これをより効率的に行う方法を見つけたことになる。
カマキリと「目が合う」のは錯覚
カマキリにはもうひとつ風変わりな特徴がある。彼らの目には一見、瞳孔があり、それがこちらの動きに合わせて動いているようにも見える。しかしこれは、見た目ほど単純なものではない。(参考記事:「【写真集】虫の目、間近で見た12選」)
「カマキリは大きな複眼を持っており、これは光受容器である無数の個眼から成っています」とブラノック氏は言う。
カマキリは、哺乳類のように、網膜に送る光の量を調節する瞳孔を持たない。
カマキリの目を覗くと、動いている黒っぽい点があるが、それは実際には個眼の集まりであり、角度の加減で黒く見えているだけだ。一方、黒い点の周りにある光受容器は、ある種の波長を反射しており、目の残りの部分が緑や白、茶色、紫色に見えるのはそのためだ。(参考記事:「不思議な目の進化」)
つまり、「カマキリの瞳孔」というのは実際には錯覚にすぎず、彼らの目は正式には「偽瞳孔」と呼ばれている。
この先の研究により、カマキリについてさらに多くの謎が明かされていくことは間違いない。
ニティヤナンダ氏は言う。「カマキリは魅力に満ちた美しい生き物です。これからも多くの発見があるでしょう」