アラスカのデナリ国立公園のオスのヘラジカ。ビッグホーンとは違い、基本的に単独で生活するヘラジカは、世代から世代へ知識を伝達するのに長い時間を要する。(PHOTOGRAPH BY BOB SMITH, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
アラスカのデナリ国立公園のオスのヘラジカ。ビッグホーンとは違い、基本的に単独で生活するヘラジカは、世代から世代へ知識を伝達するのに長い時間を要する。(PHOTOGRAPH BY BOB SMITH, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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集団の回復に数十年どころか1世紀も

 最も理想的な移動方法は、捕食者の多い危険なエリアを避けつつ、「緑の波」のピークに合わせて、新しいエリアに植物が生えはじめたらすぐにそこへ行くというものだ。今回の研究から、ビッグホーンとヘラジカは、新しいルートを最適化するように時間をかけて学習することが示された。新しい生息地での暮らしが長いほど、集団のメンバーは「緑の波」に上手に乗れるようになる。

 たまたま効率の良い移動戦略を見つけられた個体は、より長く生き残り、より多くの子孫を残す。子どもたちは母親から移動の方法を学び、自分でも新しい知識を身につけ、移動戦略を改良してゆく。つまり、有蹄類の大移動は、世代から世代へと受け継がれる行動のシステムであり、それぞれの集団が祖先の知識を拠り所にしている点で、ある種の文化の積み重ねなのだ、とカウフマン氏は言う。

 ここで1つ、大切なことを言っておきたい。移送されたビッグホーンの群れの半数が「緑の波」にうまく乗れるようになるには、50~60年の時間がかかるかもしれない。ヘラジカにいたっては1世紀以上かかるかもしれない。基本的に単独で生活するヘラジカには、社会的に学習する機会が少ないからだ。

「これまでさまざまな野生動物の再導入が試みられてきましたが、多くは失敗に終わります。私たちの研究は、その理由のヒントになります」とカウフマン氏は言う。「動物たちが新しい土地の利用の仕方を知らないことが、失敗の一因になっているのです」(参考記事:「カナダの絶滅危惧種 22匹からの再生劇」

 道路やフェンスや宅地開発により哺乳類の移動経路が分断されるときには、群れの生存だけでなく、動物たちの集合的な知識も脅かされる。野生動物に優しいフェンスや高速道路の高架橋や地下道などの対策を迅速に施さないと、動物の集団が回復するのに数十年どころか1世紀もかかってしまうことになるだろう。(参考記事:「プロングホーンの移動用に陸橋を建設」

【参考ギャラリー】戦う?威嚇?立派な角をもつ動物22選(写真クリックでギャラリーページへ)
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ミツヅノコノハガエル。上まぶたと口の先が、角状に鋭く突き出ている。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)

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