米フロリダ州のイルカは特別な漁を行っている。尾を振りながら海底をかき混ぜて、泥の輪をつくり、その輪をどんどん小さくして、魚を囲い込むというものだ。追い込まれた魚たちは水面から飛び出し、うまくいけば、輪の外で待ち構える仲間のイルカの口に入る。(参考記事:「タコを飲み込もうとしてイルカが窒息死」)
フロリダ大学の研究者ステファニー・ガズダ氏によれば、これは特にフロリダキーズ周辺で、ハンドウイルカ(Tursiops truncatus)の群れによく見られる行動だという。ガズダ氏は2005年、この現象に関する広範な研究の成果を初めて発表した。(参考記事:「動物大図鑑 ハンドウイルカ」)
今度はイルカが単独でこの「泥の輪漁」を行う動画が、フロリダ州セントピーターズバーグ近郊で撮影された。
透明な素材で船を製造する会社「シー・スルー・カヌー」の経営者で、映像制作を趣味とするマイケル・マッカーシー氏は最近、フロリダ州セミノールの海で自身のカヌーに乗っているとき、1頭のイルカに気がついた。泥の輪をつくっているところを何度か見たことのある地元のイルカだ。マッカーシー氏はズームレンズ搭載の特製ドローンを飛ばし、撮影を開始。イルカの邪魔にならないよう、十分に離れた位置から撮影した。(参考記事:「【動画】超希少クジラをドローン空撮、初の鮮明映像」)
「1頭でこのような行動をとるイルカは初めて見ましたが、決して驚くようなことではありません」と、米デューク大学の生物学者アンドリュー・リード氏は話す。「群れで行った方が効率的なのは間違いありませんが」
動画のイルカは、ボラと思われる魚の群れの一部を泥の輪に閉じ込めようとしている。魚たちは泥水の中を泳ぎたくないようだ。リード氏によれば、この魚は視力が良いため、視界の悪い場所に入ることを嫌い、水面から飛び出している可能性が高いという。イルカにとっては好都合だ。空中または泥の輪の内側で魚を捕まえられる。(参考記事:「【動画】「手」つなぎ「名前」呼びあうオスイルカ」)
ガズダ氏はイルカの群れの分業を研究してきた。フロリダキーズでの漁は「ドライバー・バリア・フィーディング」と呼ばれ、「ドライバー」であるリーダー役のイルカが、ほかのイルカたちがつくった「バリア」に向かって魚を追い込んでいく。その結果、イルカたちは食事にありつける。(参考記事:「激写!海の狂騒に鳥もイルカも グランプリ作品撮影秘話」)
リード氏によれば、こうした行動が、魚たちが泥の煙幕を嫌がることに偶然気づいた1頭のイルカから始まった可能性もあるという。イルカは閉鎖的な入り江などに魚を追い込み、漁をすることで知られている。(参考記事:「【動画】シャチ集団がクジラを襲撃、協力して捕食」)
「1頭のイルカが泥の煙をバリアにする方法を編み出し、その後、輪の方が効果的だと気づく。そこから発展したとしても不思議ではありません」
マッカーシー氏はセントピーターズバーグ周辺だけで、単独で泥の輪をつくるイルカを8〜10頭ほど見たことがある。若いイルカが母親からこのテクニックを学ぶ姿を目撃したこともあるという。
動画のイルカは失敗したが、それほど労力を費やしていなかったと、マッカーシー氏は言い添えている。マッカーシー氏がこれまでに見たところでは、イルカたちが魚を捕まえる確率は約3分の1だそうだ。
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