およそ9900万年前、現在のミャンマー北部にあたる場所に、まことに運の悪いダニがいた。
通常なら当時のダニは、植物の陰に身を潜め、小型の哺乳動物や羽毛恐竜から血を吸うチャンスをうかがっていたと考えられる。しかしこのダニはどうしたものか、クモの巣にひっかかってしまい、あっという間に巣の主であるクモにぐるぐると縛りあげられ、身動きできなくなった。(参考記事:「恐竜に寄生した吸血ダニ、琥珀で発見、9900万年前」)
こんなことがわかったのも、ダニがさらなる不運に見舞われたからだ。逃げようともがく太古のダニ。そこへ樹脂が染み出してきてダニの体を包み込み、クモの糸との格闘劇を永久に琥珀の塊の中へと封じ込めてしまった。
今年の4月に学術誌『Cretaceous Research』に発表されたこの風変わりな化石は、これまでに類のないものだ。クモの巣の一部が昆虫もろとも琥珀に閉じ込められた化石は、今までにも発見されている。しかしダニの化石は珍しいうえ、クモがダニを捕らえていたことを示す証拠は今回が初めてになる。
「今回の発見は非常に貴重なものです」と、論文の筆頭著者でドイツ、フンボルト博物館(ベルリン自然史博物館)の学芸員であるジェイソン・ダンロップ氏は言う。 (参考記事:「勃起したザトウムシの化石、ペニスで新しい科に?」)
ミャンマー産の化石
この驚くべき化石は、ミャンマーにある琥珀採掘場で発見された。
ここで見つかる琥珀は約9900万年前のもので、その中から科学的にも貴重な化石が発見されることも多い。過去2年間だけでも保存状態の良いひな鳥や恐竜の血を吸って腹を膨らませたと思われるダニ、そして羽毛に覆われた恐竜のしっぽがまるまる見つかっている。(参考記事:「恐竜時代のひな鳥を発見、驚異の保存状態、琥珀中」)
だが、ミャンマー産の琥珀を手に入れるのは容易ではない。琥珀採掘場の多くは、ミャンマー軍と対立する反政府武装勢力の管理下にある。そのため研究者は闇取引されている化石に着目し、科学的に貴重な標本が出ないか絶えず目を光らせている。(参考記事:「世界初、恐竜のしっぽが琥珀の中に見つかる」)
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