中国、上海の南東約60キロの東シナ海に、嵊山(じょうさん)島という小島が浮かぶ。島にかつてあった漁村、後頭湾村は、伸び放題の緑に覆われた抜け殻となって、過ぎた日の様子を伝えている。
1990年代、この集落には漁師とその家族2000人ほどが暮らしていた。だが、何年かするうち、近くにある上海との競争について行けなくなった。漁業に頼っていた人々はやがて、もっと大きな可能性を求めて中国本土に移住。その後20年余りで民家は放棄されていった。(参考記事:「誰もいない世界、精緻なミニチュア廃墟7点」)
草木にのみ込まれた何十軒もの家々が、海岸近くまで迫った丘の斜面に点在している。壁が倒れたり、屋根が崩れ落ちたりした家もあれば、ほぼ完全に植物に覆われた家もある。蛇行した未舗装の道が廃屋を結び、漁港の跡は活気があった村の過去を物語っている。空き家を何軒かのぞき込めば、朽ちてゆく家庭用品や、古びた家具が目に入る。(参考記事:「廃墟となったリゾート、写真で比べる昔と今14点」)
今もまだ10人前後が後頭湾に暮らしているが、その収入源はもはや漁業ではない。住民たちは、少数の日帰り観光客を相手にかつてにぎわっていた村を案内し、水を売っている。村で売られている唯一の商品がこの水だ。(参考記事:「【動画】崩壊進む世界遺産「軍艦島」を保存できるか」)
2017年、上海を拠点に活動する映像作家のジョー・ナフィス氏は、仲間の写真家とともにこの地を訪れ、その風景をカメラに収めた。廃墟となった集落に着くと、ナフィス氏は地上からはもちろん、ドローンを使って空からも家々を探索した。
「ドローンを使ったのはいいアイデアでした。道は管理が行き届いておらず、植物が茂りすぎていましたから」とナフィス氏はウェブサイト「コロッサル」の中で語っている。「ぼろぼろになった建物がある一方、リフォーム中のように見える建物もありました。全てが不思議でした」(参考記事:「ギャラリー:空から見つけた意外な絶景 写真9点」)
上海から行く場合、南浦大橋バスターミナルからバスに乗り、嵊山島行きか、同島と橋で結ばれた枸杞(くこ)島行きのフェリーに乗る。ここまでで約4時間。ここから後頭湾までタクシーに乗り、村の中や周辺のエリアを歩くとよい。大きな寺院が見えたら、目的の村はすぐ近くだ。
この島を含む周辺の島々では、行商人たちが新鮮な海産物を売っている。後頭湾はほぼ廃村なので滞在はできないが、近くの村の宿泊施設が利用できる。
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