アマゾン河口の海で驚くべき礁を発見

濁った海水の下にカラフルなサンゴや海綿など意外な生物群

2016.04.26
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南米アマゾン川の河口域で大規模な生物礁が発見された。写真の海綿動物を含め、そこは珍しい生き物の宝庫だった。(PHOTOGRAPH BY RODRIGO MOURA)
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 南米ブラジル、アマゾン川の河口近くの海にサンゴを含む広大な生物由来の礁が見つかり、2016年4月22日付け科学誌「サイエンス」に論文が発表された。生物礁はサンゴをはじめ石灰質をもつ生物がつくる構造。従来ありえないと考えられていた海域での発見は、礁の常識を大きく塗り替えることになりそうだ。(参考記事:「グレート・バリア・リーフの93%でサンゴ礁白化」

40年前の論文に記された「幻の礁」

 海洋学者のパトリシア・イェガー氏は、アマゾン河口の濁った水を採取した後、研究船を沖合の大陸棚へ向けた。同乗するブラジル人研究者ロドリゴ・モウラ氏は、「幻の礁」を追いかけていた。モウラ氏が持ち込んだ1977年の研究論文には、手描きの地図があり、この海域に珍しい礁があることを示唆していた。

 イェガー氏は懐疑的だった。彼女は米ジョージア大学に在籍し、アマゾン河口域の微生物群を研究してきた。アマゾン河口域は、海に流れ込む水と堆積物の量が、世界中のどの川よりも多い。この海域でのダイビングは、ドロドロの濃いシチューの中を泳ぐようだと聞いたことがある。「川から流れてくる泥で、あらゆるものが窒息してしまっているだろうと考えていました」

 しかし、リオデジャネイロ連邦大学のモウラ氏が2012年のこの日、その大陸棚付近の海底からすくった泥が、近代海洋研究における大発見につながる。沖合120キロに至るまで、アマゾンの泥だらけの水の下に生物礁が広がっていたのである。

巨大河川から泥水が流れ込む海域で礁が見つかったことに科学者らは驚いている。(PHOTOGRAPH BY LANCE WILLIS)
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「それまでの調査で見たことのない、驚くべき生物たちに出会えました」とイェガー氏。見つかったのは、ウミウチワのようなサンゴ、色鮮やかな小さな魚、サンゴモという藻類の仲間、黄色や赤の海綿動物などだ。

 この発見は多くの人々を驚かせたばかりではない。科学者は生物礁に対する基本的な知識を再考することとなった。よくある熱帯サンゴとは異なり、この生物礁の大半は、光が遮られて光合成のない、極めて酸素が少ない場所に存在している。それでも礁は、場所によっては高さ30メートル、全長300メートルもの広がりを見せていた。

「私たちは、教科書的にはありえない場所で生物礁を発見したのです」と述べるのは、論文の共著者でリオデジャネイロ大学のファビアノ・トンプソン氏だ。

濁った水の下に

 研究チームは、ブラジルの北側国境からマラニョン州にかけての海域で数年にわたる調査を実施。小さなクモヒトデやテヅルモヅル、環形動物、73種の魚(その大半が肉食性)、61種の海綿動物を採取した。なかにはゾウの赤ちゃんほどの大きさをもつ海綿動物もあった。

 この礁では大型のロブスターやレッドスナッパー漁が行われているものの、生物はさほど多様ではない。海綿動物が分厚く覆う海底は、カナダ沖の大西洋やオーストラリア西部の熱帯海域とよく似ている。しかし、それらの生物礁は、アマゾン河口のように毎秒30万立方メートル(世界中の河川の流量の20%)もの淡水が流れ込むエリアに存在するわけではない。(参考記事:「アマゾンで「沸騰する川」を発見」

とげのあるウニ、枝状の軟質サンゴ、イシサンゴ、61種の海綿動物など多くの生物が確認された。(PHOTOGRAPH BY RODRIGO MOURA (左); NARA LINA OLIVEIRA (右))
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 実際に潜ってこの礁を見た科学者はまだいない。水が濁り、流れが速く荒れた海での潜水は、命にもかかわりかねない。しかも、礁は水深50~100メートルと深い場所に位置する。「誰もが関心を持っています。百聞は一見にしかず」とトンプソン氏。研究チームが数回の調査遠征で海面からマッピングを行った結果、今回の生物礁系は9500平方キロにわたって広がっているとみられる。

カリブ海とつながる

 「リーフ(礁)」と聞くと、多くの人がカラフルな熱帯サンゴ礁を想像するだろう。それは、温かい地域の浅水域で成長し、1000キロ近く広がることがある。しかし、アラスカの深い海にもサンゴは存在する。(参考記事:「アラスカ、氷の海でサンゴの調査」

 しかし、一般に大きな川からの流れ込みは、海水の栄養分や塩分濃度、光の透過性などを変え、大きな生物礁の形成を妨げる。イェガー氏が推測したように、堆積物が海底を覆い隠してしまうばかりか、とりわけこの海域では、強風と急流の影響で、海底にすむ無脊椎動物の種類も限られると考えられてきた。

 ところが1977年、アマゾン河口域で、普通ならサンゴ礁にいそうなカラフルな魚が数十匹見つかった。それ以降、この海域は何かが異なると考えられてきた。1999年にはモウラ氏が黄色いイシサンゴや放射状のサンゴなどを発見。カリブ海のサンゴ礁の遺伝子との共通性が示唆され、カリブとアマゾン河口という二つの海域をもっと広いサンゴ礁がつないでいる可能性が出てきた。(参考記事:「生命躍る中米の青い海 メソアメリカン・リーフ」

 その大陸棚付近の水深は十分に深く、流れも速いため、堆積物は必ずしも海底まで届かないことがわかっている。また、今回見つかった礁の中央から南部にかけては、水流の季節的な変化によって光が届く時期があることもわかった。

アマゾン礁は、熱帯サンゴ礁ほど生物が多様なわけではないが、ロブスターやレッドスナッパー、エイなどの魚が生息する。(PHOTOGRAPH BY RODRIGO MOURA)
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 しかし、新たに見つかったこの礁にも、すでに脅威が迫っている。ブラジル企業や多国籍企業が、石油探査のためにこの大陸棚の少なくとも35区画を取得しているのだ。そのうち最大20区画は、間もなくこの礁の近くで石油の生産を開始する。

 今回の論文は、「そのような大規模な産業活動は、環境に大きな変化をもたらす。企業は、影響が広がる前に、サンゴ礁系の社会生態学的評価を促進すべきである」と勧告している。

 今回の発見に対する理解は始まったばかり。「今のところ、わずか900キロの調査をしたに過ぎません」とトンプソン氏。残りの90%については、まだ何もわかっていない。「あと20回は、あの場所に戻る必要があるでしょう」(参考記事:「アマゾンマナティーに会いに、アマゾンへ」

文=Craig Welch/訳=堀込泰三

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