「コラタ村のキープは、作者の子孫によって手紙であることが証明された初めてのキープである」と論文には書かれている。ハイランド氏によれば、そのキープは数を記録した普通のキープより大きく複雑だという。素材も通常は綿が主流だが、新たに発見されたものはビクーニャやアルパカ、グアナコ、リャマ、シカ、ビスカッチャといったアンデス山脈の動物たちの毛や繊維で作られている。(参考記事:「動物大図鑑 リャマ」)
動物の繊維は綿より染めやすく、色持ちも良いため、結び目と色で情報を記録、伝達するキープの素材として、より適している。(参考記事:「先史人類が着た衣服、服装の起源を探る」)
また、ハイランド氏はコラタ村の人々から、色や繊維の種類、さらにはひもを編む方向など、複数の要素によって情報を記録しているという説明を実際に受けた。そのため、キープを解読するには、見るだけでなく触れる必要がある。
ハイランド氏が引用したあるスペインの年代記には、動物の繊維でできたキープは「色鮮やかで、ヨーロッパの書物と同じように歴史的な物語を記録することができる」とある。
キープの模様をコンピューターで解読
コラタ村のキープは18世紀半ばのものと推測される。最初にスペインの入植者たちがやって来た1532年から200年以上も後のものだ。そこで1つの疑問が生じる。スペイン人の到来によってアルファベットを知ったことで、キープの構造がより複雑になったのだろうか? それとも、物語を伝えるキープは以前から存在し、コラタ村のキープと同じようなものだったのだろうか?(参考記事:「17世紀に沈没したスペイン商船、積荷ごと発見」)
米ハーバード大学の人類学者ゲイリー・アートン氏は「歴史的にとても興味深い発見ですが、年代を特定することが非常に重要です」と述べる。「今回の発見をそのまま過去に当てはめることができるかどうかは、やはり大きな謎です」
アートン氏とペルーの考古学者アレハンドロ・チュー氏は数年前、キープの工房あるいはインカ帝国の記録保管庫だったと思われる場所で、キープの山を発見している。
将来的には、キープの模様をコンピューターで解読できるようになるかもしれないと、アートン氏は話す。アートン氏をはじめとするハーバード大学のチームは「キープ・データベース(Khipu Database)」を構築し、500を超えるキープの画像や説明、比較を記録している。(参考記事:「21世紀中に解明されそうな古代ミステリー7つ」)
最盛期のインカ帝国では、何千、何十万ものキープが作られていた可能性がある。しかし、自然劣化やヨーロッパからの入植によって大部分が失われたのではないかと考古学者たちは考えている。現時点で存在が確認されているキープは1000にも満たない。
ハイランド氏は7月にペルーを訪れ、研究を再開する予定だ。2016年夏、現地調査の最終日、氏は1人の年老いた女性と出会った。女性は子供のころキープを使ったことがあると話した。しかし、質問をする前に、女性は家畜の世話をするため、立ち去ってしまった。
自分の目標は歴史の謎を解くことだけではない。「ネイティブアメリカンたちの知性の証しである驚くべき偉業」を明らかにしたい、とハイランド氏は語った。