【動画】あの巨大魚も!メコン水系の驚異の大回遊

移動する魚は100種以上、調査プロジェクトが進行中

2017.04.01
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

年に1度の好機

 当然ながら、数え切れないほどの漁師が年に1度の好機をとらえるため、引き網や刺し網、たも網を携えてトンレサップ川に押しかける。

 最も大きく、複雑な漁具は「ダイ」と呼ばれる定置網だ。10月から3月まで、テントのような形をしたネットが14列、全部で63個並べられ、流れてくる魚たちを捕まえる。ネットはそれぞれ横幅25メートル、奥行き100メートルほどだが、1つの網にわずか1時間で5トン以上の魚がかかる。

 一体、毎年どれくらいの魚がトンレサップ川を下っているのだろう?

 トンレサップ川は水深30メートルを超えることもあり、濁った水の中を泳ぐ無数の魚を正確に数える手段はない。ただし、漁獲量のデータから推測することは可能だ。2011年から2012年の記録では、ダイ漁での漁獲量は、4万6000トンだった。ホーガン氏によると、これは約50億匹に相当する。

 問題は、トンレサップ川を下る魚のうち、どれくらいが網にかかっているかだ。ダイ漁師のラオ・スレアンさんは、漁獲率は最大90%に達すると考えている。

 トンレサップ川にずらりと並ぶ定置網を見ると、スレアンさんの言い分も納得できる。しかし一方で、下流に設置されたダイの漁獲量が上流のダイの漁獲量と変わらないこともあり、多くの魚が網をすり抜けていることがうかがえる。

「トンレサップ川を移動する魚の数は、多い年で50億匹をはるかに上回ると推測されます」とホーガン氏は話す。

 魚全体の量は、東アフリカの平原を大移動するヌーやシマウマ、ガゼルたちを足した値か、あるいは、毎年ヨーロッパとアフリカを渡る小鳥たちの100倍に匹敵するかもしれないという。(参考記事:「動物たちの地球大移動」

大回遊を追跡する

 ただし、過去にはもっと多くの魚がトンレサップ川を下っていたことは間違いない。乱獲や生息地の喪失、ダムの建設などにより、メコン水系の大部分で魚が激減しているのだ。約1000年前に描かれたアンコール遺跡の壁画は、メコンオオナマズやパーカーホが現在よりもたくさんいたことを伝えている。(参考記事:「ダム建設に揺れるメコン川」「アマゾンの巨大ダムが7割の動物を絶滅させる恐れ」

 ホーガン氏らは回遊の実態とメコン水系の変化による影響を詳しく調べるため、魚たちにタグを付け、追跡していく予定だ。ここ数年にトンレサップ川でタグを付けた魚たちの中には、さらに南下して隣国ベトナムに入ったものもいれば、約320キロ上流のラオス国境近くに達したものもいる。(参考記事:「車並みの超巨大淡水エイを捕獲、世界記録か」

「これは水系全体がつながっている証拠です」とホーガンは話す。「魚たちの回遊は、メコン川とその支流の生態系が人にもたらす恵みにとって、非常に重要な要素です。流域で行われている漁業だけでも、その価値は年間100億ドルを超えていると思われます」(参考記事:「東南アジアで163種の新種、風変わりな生物も」

 トンレサップ川の回遊に関しては、それが雨期のピークに関連していることも同じくらい重要であることを忘れてはならない。メコンオオナマズやパーカーホを含む無数の稚魚がメコン水系の流れに運ばれ、トンレサップ湖をはじめ、カンボジア中部~南部、ベトナムの氾濫原に到達しているのだ。

 研究者らはそうした大移動についても2017年中に調査し、脅威にさらされる稚魚たちについての理解を深める予定だ。

文=Stefan Lovgren/訳=米井香織

  • このエントリーをはてなブックマークに追加