クモの進化の謎解く鍵、3億年前の化石で新種発見

どうやって網をつくれるようになったのか、進化の過程解明に光

2016.04.04
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Idmonarachne brasieri を復元した3Dモデル。これにより、袋状の腹部、鋏角の存在、そして糸を操る出糸突起がないことが明らかになった。(ILLUSTRATION BY GARWOOD ET AL 2016, MUSEUM NATIONAL D’HISTOIRE NATURELLE, PARIS)
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 フランスで美しい状態で保存されていた化石が、最古のクモに非常に近い生物であることが明らかになった。

 3億500万年前の石炭紀に生きていたこの8本足の生物は、3月30日付けの学術誌「Proceedings of the Royal Society B」に掲載された論文で、ギリシャ神話に登場する優れた機織娘のアラクネとその父イドモーンにちなみ、「Idmonarachne brasieri」と名付けられた。この化石はアマチュア化石ハンターのダニエル・ソッティ氏が1970年代半ばにフランス東部のモンソー=レ=ミーヌで発見したが、体の半分が石に埋まっているせいで、ずっと詳しいことがわからない謎の生きものだった。現在はパリの国立自然史博物館に展示されている。(参考記事:「史上最大のクモ化石、内モンゴルで発見」

「初めて見たとき、どの種類のクモ綱なのかわかりませんでした」

 こう振り返るのは論文の主要著者である英マンチェスター大学の古生物学者、ラッセル・ガーウッド氏だ。化石に埋もれていたため、標本は腹部しか見えない状態だったが、氏は一目見ただけでクモ綱との関連性に気が付いた。その後、研究チームは高解像度でCTスキャンを行い、化石の中にもっと多くの部位が残されていることを発見した。(参考記事:「ザトウムシ、3億年前からほぼ進化せず」

「石のなかには脚と体の前半分が埋まっていました」

 ガーウッド氏の研究チームは、3Dモデルを作って Idmonarachne を復元した。その結果、クモによく似た鋏角をはじめ、さまざまなクモ綱の特徴を持つことが明らかになった。しかし、詳細なモデルによって、いくつかの大きな違いがあることも示された。

 現代のクモをよく見ると、体のうしろ半分である腹部は袋状になっている。「ところが、この生物は違いました!」とガーウッド氏。 Idmonarachne は腹部に節を残しており、どちらかと言うとクモ綱のカニムシに近い。節のある体のほうが進化的には古いと考えられている。(参考記事:「洞窟のサメ カニムシ」

決定的な器官がない種

 さらにIdmonarachneには、クモの習性にとって決定的なものが不足している。出糸突起(しゅっしとっき)がないのだ。(参考記事:「タランチュラは足から糸を出す」

 精巧に作られたクモの巣はクモの代名詞である。しかしこれまでの化石から、クモの糸を分泌する能力が、それをうまく操る能力よりも先にあったことがわかっている。Idmonarachne よりも昔の3億8500万年前に生きていたuraraneidと呼ばれるクモの親戚は、糸を出すものの、網は作らなかったことがわかっている。(参考記事:「弦楽器であり感覚器官であるクモの糸」

「uraraneid には糸を出す栓はあっても、網を作るための出糸突起がなかったのです」

 Urarneid と Idmonarachne は、粘着力のある精巧な罠を作らずに、巣穴を補強したり、卵嚢を包んだりしていたのかもしれない。しかし、その糸をうまく使いこなす付随器官がないことが真のクモとの違いであるとガーウッド氏は解説する。

 それでもこの研究結果から、Idmonarachneは「真のクモに続く進化の道筋に位置する」ことがわかります、と米スミソニアン国立自然史博物館のクモ学者、ジョナサン・コディントン氏は言う。この化石が持つ一連の特徴は、「真のクモの糸をつくれるようになるための、極めて見事な変化を含んでいます」

 その意味で Idmonarachne は、糸のかたまりを出すだけだったクモに似た生物と、そして、ほんの1mの距離に何匹も存在しているほどの繁栄を遂げた優秀な機織り職人の間をつなぐ架け橋といえる。

文=Brian Switek/訳=堀込泰三

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