宇宙考古学で遺跡保護を、TED受賞者が呼びかけ

NASAの衛星画像分析などをクラウドソース化する斬新な手法

2016.02.24
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サラ・パーカク氏。衛星画像を用いて古代遺跡を保護・監視するという斬新なアイデアで世界的な注目を集めている。(PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 考古学者は長年にわたり、古代遺跡の盗掘や人類の遺物の盗難を防ごうと絶望的な戦いを繰り広げてきた。政府に働きかけて主要な遺跡に警察官を置いたり、遺物の密輸組織を取り締まったり、略奪品に対する緊急事態宣言を発令したりといった、地道な取り組みだ。

 毎年「広める価値のあるアイデア」に贈られるTEDプライズで賞金100万ドルを獲得した宇宙考古学者のサラ・パーカク氏は、2月16日のTEDカンファレンスにおけるプレゼンテーションで、賞金をこの問題を解決するために投じると発表した。最新のコンピューターテクノロジーを使った斬新な盗掘対策だ。

 それは、世界中の大人と子どもに宇宙考古学者になってもらおうというものだ。研究者らのチームとともに、みんなが新しい古代遺跡や盗掘活動を衛星画像に記録できるクラウドソーシング用のオンラインプログラムを開発し、データを考古学者や政府機関と共有できるようにする。

エジプト エルヒベを写した2009年の衛星画像(左)と2012年(右)の比較。盗掘坑が劇的に増えているのがわかる。(SATELLITE IMAGES COURTESY SARAH PARCAK)
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「最終的に世界全体の地図を作るのが大きな夢です。盗掘被害に遭っている場所が赤く表示される、グローバルな警告システムが完成することになります」と、米アラバマ大学バーミングハム校地球観測研究所の所長を務め、ナショナル ジオグラフィックのフェローであるパーカク氏は語った。(参考記事:「経済危機のギリシャで市民による盗掘が急増」

17のピラミッドと3000の集落を発見した手法を応用

 パーカク氏にとって、こうした開発は手馴れたものだ。氏がエジプト考古学を専攻する大学院生だったとき、はるか昔に失われたエジプトの集落を探すために、NASAの高解像度衛星画像やその他の情報の分析を始めてみた。試行錯誤を重ねるうちに、土に埋もれた古代の壁を見つけるには、上にかぶさる土壌のある化学的な特徴がカギを握ることに気がついた。そのおかげで、2011年には、それまで知られていなかった17のピラミッドと3000の集落をエジプトで発見した。

 氏の研究が大きな節目を迎えたのはちょうどそのころだった。2011年、エジプトの国民がホスニー・ムバラク大統領政権打倒に動き出すと、騒動に便乗してエジプトの重要な古代遺跡が盗掘され始めたのだ。このニュースに不安を感じたナショナル ジオグラフィック協会は、衛星画像を使った損害規模の評価をパーカク氏に依頼した。(参考記事:「エジプトの宝、略奪から市民が守る」

「あれが、この分野に足を踏み出すきっかけでした」とパーカク氏は言う。氏の研究によって、破壊の状況が明らかになった。2011年5月から2012年秋の間に、2つの主要遺跡(サッカラとリシュト)における盗掘坑の数が5倍以上にも増えていたのだ。

 この研究がきっかけとなり、単に穴の数を数えるだけでなく、氏は古代遺跡を保護する新しい方法を開発したいと思い始めた。「盗掘との戦いに負けているのが現実です。考古学者の手立ては限られており、大幅な規模の拡大を必要としています」

 したがって、2015年11月に彼女がTEDプライズの賞金である100万ドルを手にしたとき、そのお金でやりたいことは決まっていた。それは、世界中の一般市民に考古学に参加してもらい、古代遺跡をマッピングして保護する新たな市民科学を生み出すことだった。

 パーカク氏はいま、技術的な開発を手伝えるクラウドソーシングの専門家を探している。そのシステムは、こういうものだ。まずログオンして基本的なチュートリアルを受けると、ユーザーに「1枚または複数のカードが配られ」る。カードにはそれぞれ400~2500平方メートルをカバーする小さな衛星画像が映されている。

エジプト ダシュール南部の古代遺跡を写した2010年の衛星写真(左)と2013年(右)の比較。盗掘が増えているのがわかる。(SATELLITE IMAGES COURTESY OF SARAH PARCAK)
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 遺跡を保護するため、ユーザーに与えられるのはイタリア南部やペルー北部といった大まかな位置情報だけ。その後、宇宙から見た古代の墓、村、盗掘坑などの例が示され、ユーザーは配られたカード上で似たような特徴を探して報告する。

 その一方で、パーカク氏のチームは、盗掘に関するこれらの新しいデータを関連する政府と共有する。さらに、以前は知られていなかった古代遺跡の地図を作り、その地域で活動している考古学者に渡す意図もあるという。

「考古学の春」は訪れるか

 ただし、1つ障害がある。「新しい遺跡を発掘するときは、考古学者はみんなの理解を得る必要があります。Google Hangout、Periscope、Twitterなどを使って、プロセスの透明性を確保しなければなりません。つまりこれは、考古学的発見の民主化なのです」

 計画通りに進めば、秋には新しいプログラムがオンライン上で公開される。氏は、世界の子どもたちに探検と発見の興奮を紹介することで、古代遺跡の大切さと、世界の文化遺産の保護が差し迫っていることを次世代に伝えたいと望んでいる。

「世界的な盗掘を止める唯一の方法は、人類の歴史が重要であるという意識を人々に持ってもらうことです」とパーカク氏。

 ナショナル ジオグラフィック協会文化遺産イニシアティブのシニアディレクターを務めるクリストファー・ソーントン氏は、この意欲的なプロジェクトは、考古学者が長い間経験してきた負け戦に大きな違いをもたらす可能性があると述べている。(参考記事:「武装組織ISIS、遺跡盗掘も資金源」

「サラのビジョンは正しく、(プロジェクト開発のための)最適なグループを集めていると思います。盗掘について私たちが知っていることを一般の人々に伝える大きなチャンスです。私たちはこの世界に深く根差しているのですから」

【フォトギャラリー】思わずゾクゾクする考古学フォトギャラリー

文=Heather Pringle/訳=堀込泰三

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