解説:サルのクローン誕生、その意義と疑問点

クローン人間が技術的に可能に、でも必要性は?

2018.01.26
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クローンを作ることは倫理的に問題ないの?

 ヒト以外の霊長類を実験動物として使用することをめぐっては、以前から論争になっていた。動物愛護団体は、霊長類がヒトに近いからこそ、実験に使うことは残酷だと批判してきた。また、クローン動物を作ること自体についても、流産の多さ、不毛な社会環境、親ではなく人間に育てられることなど、動物に不自然なストレスを与えるものだと主張している。

 米国ヒューメイン・ソサイエティー動物実験問題部門のキャスリーン・コンリー氏は、今回の研究について「動物のことを、人間が利用するための使い捨てのモノのように思わせかねない」と批判する。「どんな実験でもできる動物を作りたいという考え方はまっとうなものでしょうか? 動物の扱い全般に悪影響を及ぼすだけです」(参考記事:「実験動物、男性の匂いでストレス」

 動物虐待を包括的に禁止する法律を持たない中国は、動物福祉に関して世界から厳しい目を向けられてきた。研究チームは、自分たちの研究施設は、米国国立衛生研究所(NIH)が定めた動物福祉に関する規制に従っていて、サルの福祉には十分配慮していると主張する。

 米カリフォルニア国立霊長類研究センターの行動神経科学者イライザ・ブリス=モロー氏は、遺伝学とコンピューターモデルの進歩により、実験用のサルの需要が低くなる可能性はあると言う。「この10年間の技術の進歩には目をみはるものがあります。行動神経科学の分野でも、クローンを使わないと答えが出ないと考えられていた問題の一部が、別の方法で研究できるようになっています」

 しかし、多くの生物医学研究者は、パーキンソン病からエイズや発達障害まで、ヒトの複雑な病気や障害を研究するためには、まだ実験用の霊長類が必要だと主張している。ヴァン・ロンペイ氏は、「生物医学研究にヒト以外の霊長類を使わずにすむ方法があるとは思えません」と言う。「それができるならすばらしいことですが、現時点では、試験管内での実験やコンピューターモデルでは不十分です」(参考記事:「ネアンデルタール人のゲノム解読、我々の病に影響」

 ジョンズ・ホプキンズ大学の生命倫理学者で、生物医学研究における霊長類の使用をめぐる問題の専門家であるジェフリー・カーン氏は、今回の研究が投げかける問題は複雑だと考えている。「私たちはこの技術と生体機能チップのどちらに投資するべきでしょうか? それほど簡単な問題とは思えません」(参考記事:「未認可の幹細胞治療を求める患者たち」

今回の実験は、クローン人間を作るという観点からはどんな意味があるの?

 簡単に言うと、ほんの数カ月から数年でクローン人間を作ることが技術的に可能になることを示している。ミシガン州立大学のクローン研究の専門家であるホセ・シベリ氏は、今回の研究には関与していないが、「もう後戻りはできません」と言う。

 しかし、ここから進んでクローン人間を作るかどうかは、まったくの別問題だ。ナショナル ジオグラフィックがインタビューした科学者の全員が、現時点ではヒトのクローンを作る必要はないし、無責任だと強調する。「現時点でヒトのクローンを作る必要は全然ありません」とプー氏は言う。「この問題については国際的な議論が必要です」

 生命倫理学者のカーン氏も、国際的に議論をするべきだと主張する。「社会、国家、監視団体、政府は何をするべきでしょうか? こうした技術が人類にとって良くない事態を招くのを防ぐためには、どのように管理すればよいでしょうか?」

今後はどうなるの?

 中国の研究チームは、チョンチョンとホワホワの脳の発達を含め、長期的な健康状態を観察するとしている。論文共著者らは、上海市政府が自分たちの研究を強力に支援しており、研究所を10倍以上に拡張することを計画していると言う。また、動物福祉に関する中国社会の考え方は急激に変化しているが、ヒト以外の霊長類を使う研究に対してオープンな心を持ち続けてほしいと願っている。

「中国社会は、倫理面に十分配慮しながら大きな成果をあげた私たちの研究を受け入れてくれると思います」とプー氏は言う。「クローンサルが病気の治療にどれだけ役に立つかを私たちが証明することができれば、西洋社会もわかってくれると思います」

文=Michael Greshko/訳=三枝小夜子

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