解説:サルのクローン誕生、その意義と疑問点

クローン人間が技術的に可能に、でも必要性は?

2018.01.26
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体細胞核移植によって誕生した初のクローンサル「ホワホワ」。(PHOTOGRAPH BY QIANG SUN AND MU-MING POO, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES)
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霊長類の体細胞クローンを作るのに、こんなに長くかかったのはなぜ?

 体細胞核移植のプロセスは、皮膚細胞から核を引き抜き、卵子に押し込み、あとは完全なクローンが誕生するのを待つだけ、といった簡単なものではない。皮膚や筋肉などの組織に胚細胞が分化する過程では、DNAが巻き取られ、凝集し、化学タグをつけられて、特定の細胞内では特定の遺伝子しか発現しないようになっているからだ。ちょうど、冒険物語の展開を自分で選べる『きみならどうする?』シリーズの絵本を読むときに、自分が気に入った展開だけを残して、ほかのページを糊付けしてしまうのに似ている。

 成功率を高めるためには、ドナーの細胞核のDNAを初期胚のDNAに似た状態に戻さなければならない。遺伝子の時計の針を巻き戻すには、動物の種類ごとに異なる複雑な化学的手順を踏む必要がある。これが、サルのクローンをなかなか作れなかった理由の1つだ。論文の共同執筆者である中国科学院神経科学研究所の非ヒト霊長類研究施設長であるチャン・スン氏によると、研究チームはいくつもの手法を試した後、今回の手法でようやく成功したという。(参考記事:「生命を自在に変えるDNA革命」

 スン氏のチームは、体細胞核移植胚をいったんトリコスタチンAという物質に浸して、ドナーDNAが凝集しないようにした。また、胚を刺激してある種の酵素を作らせ、この酵素がドナーDNAの化学タグを切り、ロックされていた遺伝子が解放されるようにした。なお、研究チームは成体の細胞と胎児の細胞の両方を使ってクローンを作ろうとしたが、うまく成長したのは胎児の細胞から作ったクローンだけだった。これは、胎児の細胞が成体の細胞に比べて特定の種類の細胞への分化が「固まって」いないからだろうと考えられている。とはいえ、胎児の細胞もすでに分化していたので、再プログラムする必要があった。

そもそもなぜクローンサルを作るの?

 研究チームは、この技術を使って生物医学研究用のサルを増やしたいと言っている。まったく同じ遺伝子をもつ動物を使って実験を行えば、新薬や新しい治療法の試験をするときに結果のばらつきを小さくすることができるからだ。

 論文の共著者である中国科学院脳科学卓越革新センター所長のムーミン・プー氏は、「ヒトを含む霊長類のクローンを作る上での技術的な壁は打ち破られました」と言う。「私たちがこの壁を壊すことを選んだのは、ヒトの医療に役立つ実験動物を作るためです。この手法をヒトに応用するつもりはまったくありません」

 米カリフォルニア国立霊長類研究センターのウイルス学者のコーエン・ヴァン・ロンペイ氏は、長い目で見れば、そうしたクローンは有益だろうと考えている。「サルのクローンを効率よく作る技術があれば、問題を解決するために必要なサルの数は減るでしょう」

 しかし、ヴァン・ロンペイ氏とミタリポフ氏は、この技術によって中国の研究チームが約束する医学への恩恵がもたらされるには、まだ時間がかかるかもしれないと警告する。研究チームの手法がさほど効率の良いものと思えないからだ。研究チームは21匹の代理母の子宮にクローン胚を移植したが、健康に生まれたサルは2匹だけだったとしている。また、チョンチョンとホワホワはまだ生後2カ月だ。今後、クローンであることによりどのような問題が出てくるのか、研究者にもわからない。(参考記事:「【解説】人工子宮をヒツジで開発、ヒトに使える?」

「これはまだ第一歩です」とヴァン・ロンペイ氏は言う。「クローンサルを大量生産する段階には来ていません」

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