ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーとして活躍する生物学者ゼブ・ホーガン氏は、数10年前から世界の巨大魚を求めて旅を続けている。ダム、乱獲、鉱山など、人間による脅威が生態系に被害を与えるリスクが高く、かつ、まだあまり調べられていない川が探査の対象だ。
「一刻も早く巨大魚の調査と保護をしなければなりません」と言うホーガン氏によると、世界の巨大淡水魚の70%以上が絶滅の危機に瀕しているという。体長7m、体重450kgにもなる世界最大の淡水魚、揚子江のハシナガチョウザメは、野生ではすでに絶滅しているかもしれない。(参考記事:「ダム建設に揺れるメコン川」、「アマゾンの巨大ダムが7割の動物を絶滅させる恐れ」)
ホーガン氏は、世界中のダム計画において、水力発電による環境への恩恵が過大評価される一方で、魚の生息環境への悪影響が過小評価されているとする科学誌「サイエンス」に掲載された論文に言及し、「この分野で発表された論文としては、ここ数年でもっとも有意義です。大きなダムは川の生物に壊滅的な影響を与えることが多い」と警鐘を鳴らす。
たとえば、ヒグマほどの大きさに成長する東南アジアのメコンオオナマズは、複数のダム建設による脅威にさらされている。
「彼らの産卵する場所がすべてダムの上流にあるとしたら、絶滅の一途をたどるでしょう」。20年以上メコンオオナマズを研究しているホーガン氏は言う。「どうなるのかまったく予測できません」
「巨大魚の物語は、世界中の川や湖が直面している環境危機を如実に表しています。川や湖の生物多様性は、海や陸のそれよりも急速に減少しているのです」
巨大淡水エイ
淡水生のエイは複数の大陸の温かい川に生息し、寿命は数10年で、全長5m、体重600kgにもなる。彼らはダム、漁業、汚染の脅威にさらされている。(参考記事:「車並みの超巨大淡水エイを捕獲、世界記録か」)
イタヤラ
西大西洋とメキシコ湾の沿岸域に生息する海水魚で、英語名はゴリアテ・グルーパー(Epinephelus itajara)。体重360kg、全長2.4m超にまで成長する。かつて乱獲が行われていたが、米国では1990年から保護されている。(参考記事:「フロリダ沖のでっかい魚イタヤラ」)
ジャウー
アルゼンチンのパラナ川でジャウー(Zungaro zungaro)を見せるホーガン氏。他の魚を食べる夜行性のハンターで、最大で全長140cm、体重50kgほど。
メコンオオナマズ
うろこのない魚では世界最大のメコンオオナマズ(Pangasianodon gigas)。このサンプルは2002年にカンボジアのトンレサップ川で捕獲されたもので、体重160kg、全長250cmだが、もっと大きいものも見つかっている。同種は国際自然保護連合(IUCN) によって近絶滅種(critically endangered)に指定されている。
モトロ
アルゼンチンのパラナ川で通称「オレンジスポット淡水エイ」のモトロ(Potamotrygon motoro)を持つホーガン氏。淡水魚で、全長1m、体重15kgにまで成長する。
バガリウス・ヤレリ
インドのウッタラーカンド州でナマズの仲間であるバガリウス・ヤレリ(Bagarius yarrelli)を調べるホーガン氏。全長2m、体重90kgを超える。
レッドテールキャットフィッシュ
ガイアナ共和国のレワ川で45kgのレッドテールキャットフィッシュ(Phractocephalus hemioliopterus)を持つホーガン氏。このサンプルは、過去最大の個体よりも9kgほど軽いだけだった。