28年ぶり新種のチョウ見つかる、アラスカ

博物館の標本から判明、アラスカ固有種か

2016.03.23
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新種であることが判明したチョウ、タナナ・アークティック(PHOTOGRAPH BY ANDREW WARREN)
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 博物館にあるチョウの標本を整理していた科学者が、驚くべき発見をした。これまで普通種の変種と考えられていたチョウが、実はまったくの新種であったことが明らかになったのだ。進化の過程にも興味深い点があり、さらにこのチョウは、地球上でアラスカにしかいない固有種であるかもしれない。

 3カ国の8人の科学者からなる研究チームは、米国アラスカ州で28年ぶりに発見された新種のチョウに「タナナ・アークティック(Tanana Arctic)」という英名と「Oeneis tanana」という学名をつけた。「これまで誰も気がつかなかったことに驚きました」と、研究チームのメンバーである米フロリダ大学の鱗翅類研究者アンドリュー・ウォーレン氏は言う。研究成果は鱗翅類研究誌『Journal of Research on the Lepidoptera』に発表された。

博物館収蔵の標本から

 2010年、フロリダ自然史博物館の収蔵品を調べていたウォーレン氏は、ラベルに「クリクサス・アークティック(Chryxus Arctic、学名Oeneis chryxus)」と書いてある標本を見つけた。ところが「とてもその種のチョウには見えませんでした」(参考記事:「チョウの羽、食事制限で小さく色あせる」

 標本のチョウの生殖器は典型的なクリクサスのものとは違うように見えたほか、体が全体に大きく、色合いが暗かった。茶色の翅の下面にちらばる白い斑点も大きく、霜が降りているように見えた。

 それから2年間、ウォーレン氏は他の研究機関の科学者たちの協力を得て、このチョウを詳細に分析した。ロシア人科学者が標本から採取したDNAの塩基配列を調べたところ、アラスカに生息する別の種のチョウに特徴的な配列とほとんど同じであるとわかった。ウォーレン氏は、さらに多くの個体を調べるため、アラスカの内陸部を訪れた。時期が合わず生きたチョウを捕まえることはできなかったが、現地のコレクションを見ることはできた。

交雑によって生まれた新種

 タナナ・アークティックはアラスカ内陸中央部のタナナ川とユーコン川の流域に広がるトウヒとアスペンの森に生息している。成虫の命は短く、5月下旬に現れると7月までには死んでしまう。幼虫が成熟するには2年かかり、スゲやイネ科の草を食べるが、成虫は花の蜜を吸う。(参考記事:「アマゾンのチョウの知られざる生態が明らかに」

 このチョウが生態学的に重要であるかはまだ不明だが、その進化史には興味深い点がありそうだ。ウォーレン氏は、このチョウはそう遠くない過去に、2つの種が交雑したものだと推測している。植物ではよく起こるプロセスだが、チョウについてはつい最近になってその可能性が明らかになったばかりで、まだ数種しか知られていない。

 アラスカでタナナ・アークティックが分布している範囲は、2万8000~1万4000年前の最終氷期にも巨大な氷床に覆われることなく、多くの生物種が集まってきた地域だ。

 遺伝解析によると、この時期にクリクサス・アークティックと近縁種のホワイトベインド・アークティック(White-veined Arctic、学名Oeneis bore)の間で交雑が起こり、その子孫たちが独自の生態的地位を確立して、新種として分岐していったという。その後、気候が変化すると、クリクサス・アークティックは南に移動し、やがてコロラド州に定着して今日に至る。(参考記事:「チョウの翅の色、数世代で急速に進化」

【参考動画】大移動をするチョウ「オオカバマダラ」に発信機をつけて追跡する科学者たち。保護活動に役立つよう生息地を調べようとしている。(音声は英語です)

 博物館の収蔵品の中から新しい種が発見されることは昔からあるが、遺伝解析の進歩により、近年その件数がかなり増えているとウォーレン氏は言う。特に多いのは、チョウほど解明が進んでいないガの新種の発見だ。現在、米国とカナダには825種のチョウと約1万種のガが生息している。

 ウォーレン氏は、チョウは気候の変化に対し反応が速いため、タナナ・アークティックを長期にわたってモニターすることで、北極の変化に関する新たな発見があるかもしれないと考えている。

文=Brian Clark Howard/訳=三枝小夜子

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