人間の話す言葉には、集団ごとにアクセントや語彙の異なる「方言」がある。では、人間以外の動物にもそうした方言はあるのだろうか? 今回はそんな疑問に答えてみたい。
クジラの方言
マッコウクジラは、「コーダ」と呼ばれる、特定の間隔で発するクリック音によってコミュニケーションをとっている。そしてこのコーダには、方言があることが知られている。(参考記事:「マッコウクジラ、群れごとに文化を形成か」)
マッコウクジラの研究と保護を目的とした「ドミニカ・マッコウクジラ・プロジェクト」の発起人で、デンマーク、オーフス大学の特別研究員、シェーン・ゲロ氏は、カリブ海のマッコウクジラの声を6年間にわたって調査、群れごとに特有のコーダがあることを発見した。
人間が持つ姓名のように、クジラたちはコーダで、それぞれの個体や家族、社会集団を示すと考えられる。ひと続きのクリック音で、「私はカリブ海出身なんです。あなたはどちらから?」などと、自分がどの群れに属しているのかを伝えているのかもしれない。
クジラは社会的な動物で、群れごとに狩りの仕方や子供の世話の方法が異なる。カリブ海のマッコウクジラたちは、広大な海で生きていくために、独特のコーダで文化を守り、家族との絆を深めているのかもしれない。
「『行動』とはその動物の行いそのものを指しますが、『文化』とはそれをどう行うかを意味します」とゲロ氏は語る。残念ながら、彼らは人間が引き起こした海洋汚染などの影響により、減少傾向にあるという。
犬の遠吠えに21タイプ
遠吠えは人の心も揺さぶる。動物の方言に関する別の研究では、イヌやコヨーテ、数種のオオカミなどが発した2000種類におよぶ遠吠えをコンピューター解析し、21種類のタイプに分類している。その結果、一定のトーンを長く伸ばしたり、声を震わせながら高低をつけたりなど、遠吠えは種によって特徴が異なるとわかった。
研究を率いる英ケンブリッジ大学のアリク・カーシェンバウム氏によると、たとえばアメリカアカオオカミとコヨーテの遠吠えは音の高低に変化があるが、ホッキョクオオカミのものは一定の音程に保たれているという。(参考記事:「遠吠えの解析でオオカミを個体識別」)
この研究は、動物保護にも役立つとカーシェンバウム氏は言う。米国東部にすむアメリカアカオオカミは絶滅危惧種で、野生のコヨーテとの交雑が進んでおり、種の存続が危ぶまれている。研究者らは、アメリカアカオオカミとコヨーテの遠吠えにある類似点や相違点を比較することにより、個体数の管理を効果的に行えると考えている。
話し言葉の進化
カーシェンバウム氏によると、動物の方言から、人間の言葉がどのように進化してきたかを推測することもできるという。
人間に最も近い類人猿は、発達した言葉を持っているとはいえない。そのため「必ずしも人間に近い種でなくても、声によるコミュニケーションがどんな役割を果たしているかを調べることは、言語の進化を検証する数少ない方法のひとつです」
社会的な協力関係を築くイヌの仲間などは特に注目に値する。社交性が言語を進化させる可能性があるからだ。(参考記事:「イヌはなぜサイレンで鳴く? 遠吠えの様々な理由」)
ところ変われば歌変わる
この他にも、ケープハイラックス、キャンベルモンキーなどの霊長類、それに多くの鳥は方言を持つ。
中には地域ごとに非常に特徴のある鳴き方をする鳥もおり、米マサチューセッツ大学名誉教授、ドナルド・クルッズマ氏によると、「マネシツグミなどは、歌声を聞くだけでどこからきたのかすぐにわかる」そうだ。