絶滅危惧種のナガスクジラ漁岐路に、アイスランド

唯一の捕鯨会社がこの夏の漁を中止、日本の規制基準を非難

2016.03.01
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アイスランドの捕鯨会社「クバルル」の従業員が、ナガスクジラを解体している。同社は、今夏は絶滅が危惧されるナガスクジラの漁を中止すると発表した。(PHOTOGRAPH BY ARNALDUR HALLDORSSON, BLOOMBERG, GETTY IMAGES)
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 2017年は、日本の料理店で鯨肉を食べるのが難しくなるかもしれない。アイスランドで唯一、ナガスクジラを捕獲している捕鯨会社「クバルル」が、絶滅が危惧されるナガスクジラについて、今夏は漁を行わないと発表した。

 クバルルが捕獲したナガスクジラの肉は、主に日本に輸出されている。しかし、アイスランドのニュースサイト「Iceland Monitor」によると、同社のクリストヤン・ロフトソン社長は、鯨肉に対する日本の規制基準が高すぎて「未来永劫続く障害」になるとして、ナガスクジラ漁をすべて見送ると決定した。(参考記事:「相克の島国 アイスランド」

 ロフトソン氏は、日本が行う鯨肉検査手法は時代遅れであり、同社の鯨肉輸出を大きく阻んでいると話す。ノルウェーも昨年、同様の問題に直面した。ノルウェーから輸出した鯨肉が日本の衛生基準を満たさないと判定されたのだ。(参考記事:「ノルウェー 消えゆくクジラ捕り 」

 野生生物の保護活動家たちは、同社の決定を歓迎する。「明らかに、喜ばしい動きです」と話すのは、ロンドンに本拠地を置く環境団体「エンバイロメンタル・インベスティゲーション・エージェンシー(EIA)」の事業「オーシャンズ・キャンペーン」のチームリーダー、クレア・ペリー氏だ。「クバルルのナガスクジラ捕獲量は年々増加しており、数千トンもの鯨肉を日本に輸出していましたから」

 ペリー氏はその一方で、ロフトソン氏の決定は撤回される可能性もあると警戒している。同社はこれまでにも捕鯨を中止しておきながら、後に再開したことがあるからだ。2011年、東日本大震災の津波で日本が大きな被害を受けたときには中止したものの、2013年には、捕鯨中止を求める国際的な圧力があったにもかかわらず再開した。「ですから、ロフトソン氏は日本の規制基準について圧力をかけているのかもしれません」とペリー氏は言う。

 ペリー氏のような商業捕鯨反対派は、捕鯨の方法は非人道的で、保護活動の妨げになっていると主張する。ナガスクジラの捕獲をめぐっては特に対立が激しい。シロナガスクジラに次いで地球上で2番目に大きな哺乳類であり、動物の保全状態を評価する国際自然保護連合(IUCN)によって「絶滅危惧種(endangered)」に分類されているからだ。

 アイスランドは、北大西洋に生息している2万頭のナガスクジラのほんの一部を捕獲しているにすぎないと主張している。また捕鯨業者は、捕鯨は伝統的に行われてきたもので、しかもクジラは大量の魚を捕食して漁場を破壊してしまうと言う。(参考記事:「巨大クジラ、漁業資源の増殖に貢献?」

 アイスランドの捕鯨産業は常に論争の的となってきた。ノルウェーや、自国の捕鯨が「調査目的」だと主張する日本と同じように、アイスランドも国際捕鯨委員会(IWC)の加盟国の多くが反対する中で、毎年捕鯨を続けている。クジラの保護を目的とした国際的な組織であるIWCは1986年以降、商業目的で中型および大型鯨類を捕獲することを禁じている。(参考記事:「商業捕鯨再開へ首相意欲、海外の反応は」

 アイスランドは当初、商業捕鯨の禁止に反対することはなかったが、その後1992年にIWCを脱退。2002年、商業捕鯨を一時的に停止する「商業捕鯨モラトリアム」に異議申し立てを行って再加盟した。ナガスクジラの国際取引はワシントン条約で禁じられているものの、日本やアイスランドは条約の規制を「留保」しているため、鯨肉の輸出入が可能となっている。

 アイスランド政府は毎年、捕鯨の対象とするナガスクジラとミンククジラの捕獲枠を決めている。2015年、同国の捕鯨業者はナガスクジラ155頭とミンククジラ29頭を捕獲した。ミンククジラは現在、絶滅のおそれはないとされている。(参考記事:「ミンククジラの不思議な捕食行動」

 ミンククジラの肉はアイスランドのレストランで提供されており、観光客にも人気がある。一方ナガスクジラはアイスランド国内ではほとんど需要がなく、クバルルはすべて日本への輸出に回している。とはいえ日本の鯨肉市場も大きくはなく、ナガスクジラの肉は冷凍庫内に積み上げられたままだと報じられている。

文=Jani Actman/訳=高野夏美

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