花のように見えて花でない。東南アジアに生息するカマキリの仲間、ハナカマキリ。花びらのような足と鮮やかな色をした体をもち、花になりすまして獲物を引き寄せる。
ただしこれはメスの話。オスはと言うと、メスに比べて大きさは半分ほどで色も地味だ。それは単に外見が違うという話ではなく、ほかのカマキリと比べても大きく異なっている。今回、その特異な男女差に、ほかの昆虫やクモには見られない進化がかかわっているらしいことが、最新の研究で明らかになった。
ランの花に似た大きなメスと、小柄で隠れるのが得意なオス。今回の研究によると、このように男女差の大きい進化を遂げた背景には、メスの捕食行動が関係しているのではないかという。(参考記事:「カマキリモドキはカマキリの真似をしていない?」)
どうしてそんなに違うのか?
ハナカマキリのメスとオスはどのような進化を遂げてきたのだろうか。
米クリーブランド自然史博物館のギャビン・スベンソン氏が率いるグループの研究が12月、学術誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。この研究で、スベンソン氏のチームは100匹以上のハナカマキリのサイズを実体顕微鏡で調べたほか、体の色など進化で得られた形質が時間とともにどのように変化したかをモデル化した。
さらに、ハナカマキリとその遠い親戚との関係を研究することで、ハナカマキリがどのようにして独特な外見を得たのかを解明しようとした。
その結果から見えてきたのは、ハナカマキリの先祖はある時点で花のまわりで暮らすようになり、それによって花粉を運ぶ虫を捕まえやすくなった可能性があることだ。
「その後、この系統の一部のグループで、メスの体が大きく進化し始めました。花に集まる虫を捕まえるには、体が大きい方が有利だからです」とスベンソン氏は話す。大きなメスほど、大小問わずさまざまな獲物を捕らえることができる。「最初に分かれた系統は、ほとんどの他のカマキリと同じような色でした。まわりと区別がつきにくく、捕食者に見つかりにくい緑や黒の模様だったのです」
続いて、2種のハナカマキリで、メスが鮮やかな黄色、白、ピンク色に進化する。
大きく、カラフルになったメスのハナカマキリは、花に擬態して昆虫を引き寄せる能力を得た。しかし、オスのハナカマキリは小さく目立たない体のままだった。捕食者から隠れたり、メスを見つけたり、獲物を待ち伏せたりするのに便利だからだ。
「メスを見つけて交尾しなければならないオスは、すばやく動き回れる必要があります。オスが小さいままなのはそのためではないかと考えています」とスベンソン氏は言う。「花のような目立つ姿で活発に動き回れば、すぐに正体がばれてしまいますからね」(参考記事:「フォトギャラリー:擬態する生きものたち18点」)
さらに大きく美しく
スベンソン氏によると、こうした狩猟戦略の違いもまた、メスが大きく美しく進化した要因になっているだろうと言う。狩猟戦略が進化をうながす例は、これまで節足動物では知られていなかった。
節足動物のメスが大きいのは珍しいことではない。クロゴケグモがいい例だ。米テキサスA&M大学の昆虫学者であるホジュン・ソン氏(この研究とは無関係)は、メスが大きければそれだけ多くの卵を産むことができ、オスが小さければそれだけすばやく求愛できると話す。(参考記事:「サルの睾丸、なぜ青い? 性選択が関係か」)
普通はこのように繁殖に有利であることが進化の原動力になる。しかし、ハナカマキリの場合は、捕食に有利であることが進化の原動力になっている。「とても画期的な」発見と、ソン氏は評価している。
「進化の関係について研究したり、種の正確な分類を調べたりすることはなぜ価値があるのかと聞かれることがあります。この実験は、その絶好の回答の1つでしょう」とスベンソン氏は言う。
「いったん本当の系統がわかれば、そこから、進化がどのように起こったのか、ものごとはどのように変わってゆくのかについて、ユニークな洞察ができるようになるでしょう」
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