1世紀ぶりに確認、幻の深海生物

体長10センチ足らずのオタマボヤの一種

2016.12.09
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 1900年に発表されて以来、決定的な目撃情報がなかった謎の生物の存在が、ついに確認された。

 上の写真に見られるようにおぼろげなこの生物は、米モントレー湾水族館研究所(MBARI)の遠隔操作型無人潜水機(ROV)が米国カリフォルニア州モントレー湾の深海で捕まえたものだ。オタマジャクシのような形をしたこの半透明の生き物は、オタマボヤの一種で、体長は10センチ足らずしかない。(参考記事:「深海水族館の謎の生きもの」

 ただし、タンパク質とセルロースの「家」を身にまとい、その直径は1メートルを超える。使い捨ての家は水中を漂う微粒子状の餌をとらえ、ろ過するフィルターとしての役目を果たす。フィルターが目詰まりを起こしたら、家ごと捨て去り、ときにはものの数時間で新しい家をつくってしまう。

 10センチ足らずという体長は小さく感じるかもしれないが、オタマボヤのなかでは巨大な部類に入る。オタマボヤやホヤを含む尾索動物が、体長1センチを大きく超えることはあまりない。それでも、(家を捨てることなどで)深海に栄養分をもたらすという重要な役割を担う。(参考記事:「ホヤの仲間」

 MBARIの研究者たちは、今回捕まえたオタマボヤがこれまで一度しか目撃されていなかったBathochordaeus charonであることを確認した。charon(カロン)という名前はギリシャ神話に登場する渡し守に由来する。カロンは、ステュクス川で死者の魂を運んでいたとされる。Bathochordaeus charonをはじめて確認したという論文が出たのは1900年で、試料自体は1890年代に採取されたものだった。(参考記事:「【動画】水深3800mの深海に奇妙な生物群集」

 過去にレーダーで探知したと思われることもあったが、間近で確認されたことはなかった。そのため、一部の研究者は、Bathochordaeus charonは絶滅したのではないか、そもそも最初から存在しなかったのではないか、と疑問を投げ掛けていた。すでに確認されている種が変異しただけではないか、と考える研究者もいた。

 しかし、MBARIの研究者たちがROV「ベンタナ」で撮影された映像を見ているとき、不思議な生物が目に飛び込んできた。研究者たちはROVを操作し、画面に映るふにゃふにゃの生き物を捕まえようとした。簡単な作業ではなかったが、無事に捕まえて地上で対面すると、1900年の論文の記述と完全に一致することがわかった。

 MBARIの研究者ロブ・シャーロック氏は同僚に、「本当にいたぞ!」と呼び掛けた。シャーロック氏らは、この発見を論文にまとめた。

 米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の生物学教授アリス・アルドレッジ氏は「素晴らしい発見です。論文では、同じ属の別種ではないことが遺伝学的に証明されています」と高く評価する。アルドレッジ氏はオタマボヤの専門家で、今回の研究には参加していない。

「この論文はさらに、海洋生物の研究では、直接観察することがいかに重要かということを証明しています」(参考記事:「目玉がかわいすぎる生き物、深海で見つかる」

 シャーロック氏らは別の研究で撮影された映像も見直し、Bathochordaeus charonと思われる生き物を12匹確認した。(参考記事:「ブラック・シーデビル、世界初の映像」

文=Brian Clark Howard/訳=米井香織

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