絶滅寸前のオタマジャクシ、空を飛んで故郷へ

一度は絶滅したと考えられていたプエルトリコヒキガエルを救う空輸作戦が展開中

2016.12.08
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絶滅危惧のヒキガエルに新たな希望――数千匹のオタマジャクシが生息地に放たれた。(解説は英語です)

 10月下旬、米国サンフランシスコ発プエルトリコ行きのフライトを利用した人々は、「自分たちが絶滅寸前のヒキガエルのオタマジャクシ4000匹と一緒に旅しているとは、夢にも思わなかったでしょうね」。そう語るのは、米国カリフォルニア州にあるオークランド動物園の動物学部長で、爬虫類と両生類の繁殖を担当しているアダム・フィンク氏だ。(参考記事:「壁紙 プエルトリコヒキガエル」

 飛行機に乗ったとは言っても、オタマジャクシがいたのは座席や頭上の荷物棚ではなく、貨物室に置かれた断熱容器の中だった。

 空輸されたのは、近絶滅種のプエルトリコヒキガエル(Peltophryne lemur)のオタマジャクシで、同種にとっては生き残りをかけた重要な存在だ。プエルトリコ唯一の固有種であるこのヒキガエルは、石灰岩が広がるカルスト台地の乾燥した環境を好み、頭には特徴的な“とさか”がある。20世紀の長い期間、絶滅したと考えられていた種でもある。(参考記事:「『絶滅両生類再発見』の状況」

 10月20日、オタマジャクシはプエルトリコの2カ所の国有林で、池に放たれた。「今回の放流は、プエルトリコヒキガエルの数を増やすのに大いに役立つでしょう」とフィンク氏は言う。

 プエルトリコヒキガエルの数が減少したのは、オオヒキガエルなどの外来種が導入されたことが原因だった。外来種はプエルトリコヒキガエルやそのオタマジャクシを食べ、彼らの生活の場を奪っていった。開発や集約的なサトウキビ栽培もまた、生息地の減少に拍車をかけた。

 1930年代には絶滅したと考えられていたプエルトリコヒキガエルが再び見つかったのは、60年代になってからだ。数匹が捕獲され、それ以来、米国やカナダにある多くの動物園で繁殖が試みられてきた。そのうちの数カ所が、米国動物園水族館協会の呼びかけに応じて、共同の繁殖計画に参加し、プエルトリコヒキガエルの遺伝的多様性を守るための努力を続けている。

 10月、およそ1万1000匹のオタマジャクシがプエルトリコに放たれた。その繁殖に携わったのはオークランド動物園のほか、ノースカロライナ動物園、ネブラスカ州のオマハ動物園、カンザス州のセジウィック郡動物園だ。

ヒキガエルの繁殖

 オークランド動物園には、プエルトリコヒキガエルの繁殖専用の施設がある。プエルトリコヒキガエルが繁殖対象に選ばれたのは、これが希少な種であり、また科学者たちの間で優先順位が高いとされているためだ(同動物園は、カリフォルニアの固有種の繁殖にも取り組んでいる)。オークランド動物園には現在、プエルトリコヒキガエルの成体が19匹飼育されている。

 繁殖させるタイミングは繁殖計画に参加する動物園と調整して決められ、その時期になると、フィンク氏は数匹を慎重に選び、ワイン用の冷蔵庫に入れる。この冷蔵庫は細かな温度調節が可能で、ヒキガエルをゆっくりと冷やしていくことができる。変温動物であるヒキガエルは、体温が18℃前後になると冬眠を始める。

 数週間後、今度は徐々に温めていくと、ヒキガエルは目を覚ます。次にヒキガエルが入れられるのが「雨の部屋」だ。これはプラスチック製の植物と土を入れたテラリウムで、定期的に雨を模した水をかけてやると、ヒキガエルは発情期に入る。

 そうなったところで、交尾相手がようやく登場。相手として選ばれるのは、遺伝的多様性を確保するという観点から、繁殖計画に参加する別の動物園から借り受けた個体である場合が多い。互いの相性がよければ、雄が雌の産んだ卵を受精させ、数日のうちにオタマジャクシになる。(参考記事:「【動画】カエルの交尾に『第7の体位』発見」

 絶えず動き回るオタマジャクシを数えるのは一苦労だ。そこで、浅い水に入れて写真を撮り、写真のオタマジャクシを1匹ずつ数えていく。今年フィンク氏が数えたオタマジャクシは4096匹で、昨年の732匹から大幅に増えた。オタマジャクシはその後、容器に詰められ、空港へと運ばれた。

「民間の定期便で空輸できたのは非常にラッキーでした」とフィンク氏。

未来の展望

 フィンク氏の望みは、プエルトリコヒキガエルが数を増やし、野生の環境の中でしっかりと生きていくことだが、外来種や生息地の不足といった問題は未解決のままだ。しかし、そうした脅威に対しては、専門家たちがこれまで以上に警戒の目を光らせている。

 プエルトリコヒキガエルはまた、世界中で両生類に猛威を奮っている外来種のツボカビの影響は受けていないとみられる。(参考記事:「『カエルの楽園』で致死的なカエルツボカビを発見」

 カエルの仲間は、昆虫が増えすぎるのを抑えたり、大型動物の食べ物となるなど、生態系の中で重要な役割を果たしてもいる。

 フィンク氏は言う。「今回のような再導入計画がなければ、プエルトリコヒキガエルは絶滅してしまうでしょう。私がこの仕事に携わっているのは、ヒキガエルを野生に戻したり、種の生存に関与できるからです」

文=Brian Clark Howard/訳=北村京子

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