1975~2000年:火星にロボットを送り込む

1976年~1982年に火星を周回してデータを収集したバイキング探査機によるカラー化モザイク画像。画像の右下にヘラス・クレーターの明るい点が見える。(MAP BY USGS)
[画像をタップでギャラリー表示]

 1975年、NASAは火星に向けてバイキング1号と2号を打ち上げた。1976年に火星周回軌道に入った2機は、それぞれ着陸機を切り離して着陸させ、火星の表面で撮影された最初の画像が地球に送信された。2機の周回機がもたらした情報により火星の理解は大きく進み、かつて火星の表面には液体の水の流れがあり、地球の小峡谷や川床のようなものを形成していたことが確実になった。そして、これらの川床が雨によって形成されたのか、それとも、小惑星の衝突や火山活動によって氷が解けたことでできたのかをめぐって論争が起きた。

 1997年にマーズ・グローバル・サーベイヤーが火星周回軌道に投入されると、火星に関する知識は再び大きく前進した。この探査機に搭載されていた高性能の観測機器は、より詳細なモザイク画像や、新しい種類の火星マップを可能にした。熱放射スペクトロメーターによる観測からは、火星のアルベド地図が作成された。アルベドとは物体の表面に入射した光が反射される割合のことで、初期の天文学者たちが望遠鏡で見ていたのは、基本的にはこれである。

1997年~2001年にマーズ・グローバル・サーベイヤーが収集したデータに基づいて作成された火星の陰影起伏マップ。レーザー高度計MOLAは6億7112万1600回も測定を行った。(MAP BY NASA)
[画像をタップでギャラリー表示]

 マーズ・グローバル・サーベイヤーがもたらした最も興味深い火星の表情は、表面の詳細な標高マップ(上)だ。この高解像度陰影起伏マップは、探査機に搭載されているレーザー高度計MOLAの測定データから作られた。MOLAは、火星の表面にレーザーパルスを照射し、光が跳ね返ってくるのに要する時間を測定することで高さを測定する装置である。マップ中の紺色の楕円の領域は、火星で最も低い場所であるヘラス平原だ。

 この陰影マップには、白黒の濃淡で表現したバージョンや、高低が一目で分かるような陰影をつけたバージョンのほか、陸と海を想像させる色合いのものもある。

 2001年、ナショナル ジオグラフィック協会はNASAと協力して「Destination Mars」という火星マップを作成した。地図作りには、MOLAで測定した3億カ所以上の高度データと、マーズ・グローバル・サーベイヤーのカメラで撮影した、実際の色合いに近い約1000枚の広角画像が使われている。

ナショナル ジオグラフィックが2001年にNASAと共同で作成した火星マップ。(MAP BY NATIONAL GEOGRAPHIC SOCIETY, NASA)
[画像をタップでギャラリー表示]

 この火星マップには、ナショナル ジオグラフィック協会が1998年からロビンソン図法に代えて採用したヴィンケル図法という地図投影法が用いられている。ヴィンケル図法を用いると、惑星の立体的な表面を平面の地図に正確に投影することができる。ナショナル ジオグラフィックの地図制作データベース部門ディレクターのテッド・シックレー氏によれば、ヴィンケル図法では歪みを最小限にすることができるという。(参考記事:「南極から月面まで、ナショジオ100年の地図」

2001~2016年:古くもあり新しくもあった火星

2014年に発表された火星の新しい地質図は、4機の火星探査機が収集したデータに基づいている。(MAP BY USGS)
[画像をタップでギャラリー表示]

 その後、NASAのマーズ・オデッセイ(2001年)、欧州宇宙機関(ESA)のマーズ・エクスプレス(2003年)、NASAのマーズ・リコネッサンス・オービター(2006年)という3機の火星周回機が火星に送り込まれ、火星の理解はいちだんと深まった。米国地質調査所は、これらの火星周回機からのデータをマーズ・グローバル・サーベイヤーからのデータと組み合わせた火星の新しい地質図を2014年に発表した。

 3機の周回機に搭載された観測装置は、火星の大気中の水蒸気や表面の鉱物のほか、地殻の構造まで検出できる。新たな観測により、火星の表面のかなりの部分が、それまで考えられていたより古いことが明らかになった。地図上で茶色く表示される37億~41億年前の領域は、以前の地図に比べて3倍以上も広くなっている。火星探査機は、水による浸食、氷河の活動、地震など、この惑星に今でも地質活動があることを示す証拠もつかんでいて、地質図にはこうした新しい知見も反映されている。(参考記事:「解説:火星に水が現存する証拠、水源はどこから?」

 水の存在については、火星周回機からもある程度の証拠は得られていたが(ドライアイスの極冠の下の氷や、過去に液体の水が流れた跡など)、着陸機からの火星表面の画像とデータは決定的な証拠になった。2003年に相次いで打ち上げられたNASAの火星探査車「スピリット」と「オポチュニティ」は、翌年から火星の表面で活動を開始し、2008年にはNASAの火星着陸機「フェニックス」も半年間だけ活動した。火星表面での観測からは、洪水によって形成された小峡谷や、川床や湖床、氷河が移動した跡、液体の水が存在する環境でしか形成されない種類の岩石や鉱物が見つかっている。

 現在の火星に生命がいる、あるいは過去の火星に生命がいたことを示す確たる証拠はない。けれども、液体の水が見つかったことは、火星にも生命が存在できた時代があったことを示している。巨大な運河網を建設できるような知的生命体はいなかったかもしれないが、微生物ぐらいならいたかもしれない。

2016年3月に発表された火星の新しい高解像度重力マップ。(MAP BY MIT/UMBC-CRESST/GSFC)
[画像をタップでギャラリー表示]

 科学者たちは今でも、火星周回機からのデータを使って新しい火星マップを作成している。今年3月に発表された上の高解像度重力マップはその1つだ。研究者たちは、各地点の重力を測定する中で、火星の内部に溶融した外核があることを確認できただけでなく、冬の間に大気中のどれだけの量の二酸化炭素が凍りついて極冠の上に降り積もるかも推定することができた。(参考記事:「火星の重力マップ公開、驚きの新事実が明るみに」

 火星の表面には凹凸があるため、その重力は場所ごとにわずかずつ違っていて、上空を飛行する周回機の軌道に影響を及ぼす。周回機が平原の上空を通過しているときに受ける引力は、山岳地帯の上空を通過しているときよりもわずかに弱く、峡谷の上空を通過しているときよりもわずかに強い。重力マップには、この現象が利用されている。

 ほかにもさまざまな火星マップがある。Googleとアリゾナ州立大学が制作したグーグル・マーズ(Google Mars)というサイトの火星マップには、マーズ・グローバル・サーベイヤーのレーザー高度計MOLAのデータとカメラの画像のほか、マーズ・オデッセイの熱放射撮像カメラの赤外線画像も利用されている。グーグル・アース(Google Earth)の方でも火星を見ることができる。さらに、NASAのマーズ・トレック(Mars Trek)というサイトには、火星に関するさまざまなデータやレイヤーのほかに、基本的な地図作成ツールや測定ツールも備わっている。すべての着陸機の着陸地点をチェックすることもできるし、マーズ・オデッセイ、マーズ・エクスプレス、マーズ・リコネッサンス・オービターの現在位置を正確に知ることもできる。マーズ・リコネッサンス・オービターのHiRISEカメラが火星の表面を捉えたすばらしい画像もお勧めだ。(参考記事:「高解像度カメラ「HiRISE」がとらえた火星の素顔」

【次ページ】2016~2020年以降:さらに多くのロボット(と人間?)が火星に乗り込む