【動画】器用に泳ぐテングザル、指の間には水かきも
テングザルには、他の種のサルでは見られない珍しい特性がある。泳げるのだ。部分的に水かきのついたつま先と指を使って泳ぐことで、捕食者から逃れたり、食料を探すために川を渡ったりすることができる。(解説は英語です)

 テングザルは何よりもその大きな鼻で有名だが、科学者たちのおかげで新たな特性が明らかになってきた。それは、水泳能力である。

 水を愛するこの霊長類について探るため、保全生物学者のアマリア・レゼキ氏は先ごろ、ボルネオ島のインドネシア領にあるバクット島自然公園で数週間を過ごし、マングローブの森に住むテングザルとその行動を撮影した。(参考記事:「【研究室】研究室に行ってみた。京都大学霊長類研究所 テングザル 松田一希」

「この地域の主な霊長類だと思われているのは、オランウータンです。私たちは、テングザルの水泳能力を示す動画によって、テングザルに対する注目を集められるのではないかと考えました」とレゼキ氏。彼女は、テングザルの保護に取り組む非営利団体サハバット・ベカンタン・インドネシア(Sahabat Bekantan Indonesia)と共に研究に行っている(ちなみに、「ベカンタン」とはインドネシア語でテングザルのこと)。(参考記事:「ボルネオのオランウータン」))

 生息地であるマングローブの喪失や狩猟により、野生のテングザルは7000頭を下回っており、絶滅危惧種に指定されている。レゼキ氏の調査によって島内に多数のテングザルが発見されており、同種はまだ持ちこたえていることが示唆された。

天性のスイマー

 テングザルが水を好むようになった理由は、「泳げなければ沼地で生きることが困難だから」ではないかと言うのは、環境コンサルティングをおこなうSciWrite Environmental Sciencesでチーフサイエンティストを務めるテングザルの専門家、リー・ハーディング氏だ。

 テングザルにとって泳ぐことは、食料を得るのに役立つ機能となっている。彼らの食料の大半は柔らかい若葉であり、それを求めて広範囲を移動するため、泳ぐことで効率が上がるのだ。

 指やつま先には部分的な水かきがあるので、水中に潜って泳ぐこともできる。しかし、米国の野生動物保護協会で種の保全を担当するリズ・ベネット副理事長によると、彼らがどれぐらい息を止めていられるかは、まだ正確にはわかっていない。

「近縁の仲間が泳げないことを考慮すると、彼らの泳ぎは異例です」とベネット氏は付け加えた。

侵入者に放尿

 ハーディング氏は今回の調査には参加していないが、縄張りを支配する1頭のオスと約8頭のメスでハーレムを作って暮らすテングザルに、昔から魅力を感じてきた。

 数十年前にハーディング氏が兄弟と一緒に初めてボルネオを訪れたとき、オスが縄張りをマーキングし、侵入者を脅す過激な方法を目の当たりにした。「川沿いの木の上にいた大きなオスが、私の兄弟に向けて放尿を始めたんです」

 しかしテングザルにとって、泳ぐことは楽しい遊びではない。水中の移動はリスクを伴うのだ。ワニやニシキヘビ、オオトカゲなどは、泳いでいるテングザルを襲うこともある。

消えゆく森

 テングザルにとってもう1つの危機が、ボルネオ島内のマングローブの消失だ。マングローブ・アクション・プロジェクトによると、マングローブの森の3分の1から半分程度が、森林伐採やアブラヤシのプランテーションなどの影響ですでに消失しているという。(参考記事:「特集:地球の悲鳴 ボルネオ島 迫りくる決断の時」

 また、ボルネオ島の人口は増加の一途をたどっており、テングザルが住む低地に移動してきている。そうした人との距離の近さと、木の上で眠るという習性から、テングザルが特にスポーツハンターの標的にされやすくなっているとハーディング氏は懸念する。(参考記事:「米国人による“趣味の狩猟”で大量の動物が犠牲に」

 政府は一部の地域をテングザルの保護区に指定しているが、それでも狩猟の標的になりやすいことに変わりはない。ベネット氏は言う。「彼らはますます脅かされており、その最大の脅威は人間です。彼らを保護するために、私たちはもっといい仕事をしなければなりません」

文=Carrie Arnold/訳=堀込泰三