2020年、NASAの火星生命探査はこうなる

「マーズ2020」着陸地候補は8カ所、生命の痕跡は見つかるか

2016.11.03
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水のある場所は回避

 ここまでで、マーズ2020が何を求めているかは分かったが、どこでそれを探すかが問題だ。

 地球外生命体を探すNASAの鉄則は、「水を追え」である。火星では既に、液体の塩水が時折流れ出る急こう配のクレーター壁など、今も生命を宿していそうな場所が数カ所「特別区域」として指定されている。(参考記事:「解説:火星に水が現存する証拠、水源はどこから?」

 しかし、火星の環境保護という観点から、このような場所の探査には慎重を期さなければならない。地球からやってくる宇宙船は完全に無菌状態というわけにはいかないので、水があって生命維持に適した特別地域に着陸すると、周囲の環境を汚染し、純粋な地球外生命体を探すというミッションを阻害する恐れがある。

 そこで、マーズ2020はかつて水が存在していたが今では乾燥している地帯を探査することになっている。

 最も有力な候補地は、41億~37億年前のノアキス紀に形成された地層である。火山の噴火によって大量の灰やガスが大気に放出され、太陽の熱を閉じ込め、地表が温暖化した。この時期、液体の水が地面の上と下に存在していた可能性が高い。

 さらにこのノアキス紀は、太陽に近い岩石惑星たちに大量の隕石や彗星が降り注いだ後期重爆撃期と呼ばれる時期に当たる。科学者らは、この集中砲火が生命にとって理想的な環境を作り出したと考えている。激しい衝撃で大量の水が地表にもたらされ、独特の化学的性質を持つ地下鉱物を外に露出させた。(参考記事:「火星に巨大津波の痕跡見つかる、異論も」

 またある時は、隕石の衝突で地表に割れ目が生じ、熱水噴出口が形成された。それが、生命誕生につながる有機化合物を生み出す天然の実験室になったと考えられている。(参考記事:「40億年前、火星に深さ1.6kmの海」

浅瀬に広がるストロマトライト。オーストラリア西部にあるシャークベイ。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL & PATRICIA FOGDEN, MINDEN PICTURES, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)
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湖の跡で見つかるもの

 以上の判断基準に他の検討材料も合わせて、NASAは現在マーズ2020の着陸地点として8カ所を候補に挙げている。

 マスタード氏を含む一部の専門家は、巨大な物体が火星に衝突してできた、幅1500キロのイシディス平原の周縁が着陸地点として望ましいと考えている。

 その理由のひとつは、かつて水が流れていたことを示す古いクレーター湖や溝が見つかっていることだ。また、イシディス平原が形成されたのが39億年前で、その近くにある大シルティス高原が火山活動によってできたのが約36億年前とされている。(参考記事:「火星の火山に生命に適した湖の形跡」

「その間の3億年は、火星史上において大変多くの動きが見られた時期です」。この地域の鉱床からは、かんらん石など、その動きがあったことを示唆する有力な証拠も見つかっていると、マスタード氏は指摘する。

「かんらん石は宝石にもなる美しい鉱物ですが、いくつか興味深い特徴を備えています。化学反応によって容易に摩耗し、壊れてしまうのですが、その際に水素ガスを発生させます」。水素は、微生物群が生きる上でのエネルギー源となる。

 一部の専門家は、この化学反応がきっかけで、地球に生命が誕生したと考えている。また、かんらん石が破壊される過程で炭酸塩鉱物が生まれる。この炭酸塩鉱物もまた、イシディス平原で見つかっている。

火星生命は熱水で誕生した

 マスタード氏はまた、湖の跡も悪くないが、むしろ熱水噴出口だった場所に注目するほうがよいと考えている。

 地球の湖では光合成やその他の革新的な進化を経て生命が息づいているが、火星で同じことが起こったとは限らない。マスタード氏は、火星の生命体はミネラルを豊富に含む熱水のエネルギーに支えられていた可能性のほうが高いとしている。(参考記事:「長沼毅 謎の深海生物にさぐる宇宙生命の可能性」

火星周回衛星が撮影したグセフ・クレーターの地形。(PHOTOGRAPH COURTESY NASA)
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 米アリゾナ州にある惑星科学研究所のジム・ライス氏もまた、熱水が噴出する古代温泉跡を調査したいと考えている。特に、グセフ・クレーターのホームプレートと呼ばれる場所で、NASAの探査車「スピリット」が発見した蛋白石質シリカに注目する。

「自然界でシリカが形成されるには、大量の水と高い熱が必要です。蛋白石質シリカの存在は、ホームプレート周辺に高熱の水が大量に存在していたことを示しています。温泉か間欠泉があったのかもしれません」。ライス氏は、スピリットとオポチュニティの地質学チームの責任者でもあった。(参考記事:「スピリット走行不能、NASA公式発表」

 また、イシディス平原と同様、グセフ・クレーターからも炭酸塩岩が見つかっている。炭酸塩岩は、酸性度の高い水では形成されない。

「炭酸塩岩の存在は、その場所の水のpHが中性に近かったことを示しています」とライス氏。つまり、グセフの水が生命にとって好ましい環境だったということだ。NASAの探査車オポチュニティが発見したメリディアニ平原の古代湖底跡は、高い酸性度を示していた。

 粘土層からも、グセフがかつては活発な場所だったことがわかる。粘土鉱物は、水中で形成されるのに長い期間を要する。そして、炭酸塩岩同様、酸性の環境では見つからない。「地質学的に、水が大変長い期間存在していたことを示しています。噴出してその日のうちに消えてしまうような水とは違います」と、ライス氏。

 今年初め、アリゾナ州立大学の2人の地質学者がスピリットの発見に関して興味深い解釈を新たに発表した。火星の地表からカリフラワーが生えているような形をしたシリカ層が、南米チリにあるアタカマ砂漠の間欠泉内に生息するバクテリアの作り出すシリカ層に酷似しているというのだ。グセフ・クレーターにも、数十億年前に同様の間欠泉が存在したのではないかと考えられる。

岩石サンプルを地球へ

 マーズ2020火星探査車に搭載される機器は、化石を含んでいそうな岩石サンプルを探し出すことはできる。ただし、中に実際に化石が含まれているかどうかを確認することはできない。(参考記事:「2020年、新たな探査車が火星へ?」

 その作業は、最新鋭の研究設備を持つ地球上の地質学者の手にゆだねられる。将来の有人探査を待つか、またはロボットに送り返してもらうか、いずれにしても岩石が地球へ送られるまで待たなければならない。

文=Mark Strauss/訳=ルーバー荒井ハンナ

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