足があるのに地面を這うヘビを想像してみよう。かつて、ヘビはそういう生きものだった。しかも、過去には失った足を再び生やしたものがいた可能性もある。だとすれば、なぜそんなことができたのだろうか。(参考記事:「【動画】「ニセのクモ」で鳥をだまして食べるヘビ」)
ヘビが地面を這うように進化したあとで、足を生やすようにまたいちから進化したのだろうか。それとも、別のやり方だったのか。こうした謎に取り組む2人の科学者が、ニシキヘビにある「ソニック・ヘッジホッグ」と呼ばれる遺伝子のスイッチが鍵であることを発見し、10月20日付の科学誌「Current Biology」に発表した。(参考記事:「「退化」は進化の一環、新たな力を得た動物たち」)
ソニック・ヘッジホッグはヘビをはじめ、さまざまな動物で体をつくるのに必要な遺伝子である。ヘッジホッグ(ハリネズミ)と名付けられたのは、同種の遺伝子が最初に見つかったショウジョウバエで、この遺伝子に異常があるとハリネズミのハリのような突起が全身に生えたからだ。その後も似たようなヘッジホッグ遺伝子がいくつか見つかり、なかでも「ソニック」は、発見者が当時好きだったゲームのキャラクターである「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」にちなんで命名された。(参考記事:「進化の傑作」)
遺伝子のスイッチを入れたり切ったりするのに使われるDNAのある領域を「エンハンサー」という。ヘビの場合、そのエンハンサー領域に起きた突然変異によって、脚を発達させるソニック・ヘッジホッグ遺伝子の働きが、途中から妨げられていることが明らかになった。
一方、「トカゲのソニック・ヘッジホッグ遺伝子はずっと働き続けるので、つま先に至るまで脚の形成がしっかり進みます」と、今回の研究者の1人である米フロリダ大学の生物学者、マーティン・J・コーン氏は説明する。(参考記事:「「昆虫を食べたトカゲを食べたヘビ」の化石発見」)
コーン氏と共同研究者のフランチェスカ・リール氏はまた、ニシキヘビにおいて、脛(けい)骨や腓(ひ)骨、足などの発達に使われる他の遺伝子は異常なく働けることも発見した。たまにニシキヘビの皮膚から小さな爪が生えているのはこのためだ。
もしかしたら、現代のニシキヘビもふたたび脚を取り戻せるかもしれない。そのためには、ニシキヘビが元々持っている脚の発達を助けるDNA領域の突然変異があれば十分なのだ。
コーン氏はヘビの研究を行った動機について、「脊椎動物の体の設計図のなかでは、もっとも奇妙なもののひとつですから」と述べている。さらに、この発見が今後与える影響を次のように語った。
「進化の過程で身体の器官や構造がどのようにして失われていったかなど、比較研究への基礎となる発見だと思います」