携帯で変わるパキスタンの伝統社会、写真21点

時代の変化を受け入れる山村の姿を、写真家が見つめた

2016.10.27
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近隣の村への日帰り遠足を終えて帰宅するイスマイル派のボーイスカウト。(PHOTOGRAPH BY MATTHIEU PALEY, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 数日後、エサル・アリ氏と話をした。身内の結婚式に出席するためにスーツを着込み、集団から離れて独り大岩に座っている。「近年のさまざまな変化は、その多くが教育によってもたらされたものです。最近では、私たちは村を出て、大きな都市や海外にある大学に通うようになりました」

「しかし変化はここからもやってきます」。アリ氏はそう言って、自分の携帯電話を指さす。スマートフォンとモバイルデータ・ネットワークは、村人と外の世界、そして隣人たちとの関わり方に変化をもたらした。

「シェイナに初めて会ったのは、村の近くにある町でした」とアリ氏は言う。

現在のイマームが前任者の跡を継いだ日を記念する「イマーマトの日」の祝賀を終え、ダンスに興じるワヒ族の若者たち。山地を遠く離れた大都市の学校に通う彼らが、故郷とのつながりを取り戻すひとときだ。(PHOTOGRAPH BY MATTHIEU PALEY, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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ワヒ族の家に飾られた、現在のイスマイル派のイマームであるカリム・アーガー・ハーン4世をかたどった刺繍。彼は25カ国におよそ1500万人の信徒を抱えており、ゴジャール地区にはそのうち2万人が暮らす。(PHOTOGRAPH BY MATTHIEU PALEY, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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「それからメールを送り合うようになり、家に誰もいないときを選んで電話をする時間を決めました。ここでは昔から、誰かと一緒にいることは神聖なこととされています。ですから男女がゆっくりと関係を築いていく間も、私たちは決して年長の人々を不快にさせるようなことはしません。電話があろうとなかろうと、村の慣習は守るべきなのです」

 こうしてアリ氏はシェイナと結婚した。10年前であれば、彼らの関係はかなり違ったものになっていたはずだが、それは携帯電話がなかったためではない。そのころは「親たちが嫁や婿を選んでいました。しかし今では、ほぼすべてが恋愛結婚になっています」(参考記事:「ブルガリア伝統の花嫁メイク」

 結婚式が行われる家の前に、行列が2本伸びている。一方は男性、もう一方は女性の列だ。刺繍を施した縁無し帽の上に白いベールをかけた初老の女性が私を迎える。彼女は私の右手を取り、そこにキスをする。私は彼女の手にキスを返す。ワヒ族流のあいさつだ。私は列に沿って歩きながら、女性たち一人ひとりに「お元気ですか、親愛なるお母さん」と伝統的なあいさつの言葉をかける。

 私の妻と幼い息子2人は、どこかでクリケットをやっているはずだ。探しに行くと、自撮り写真を撮る若い花嫁と友人たちの集団が、妻の腕を引いて撮影に引き入れている。彼らは私にも一緒に入れと声をかける。

「私たちは最初ソーシャル・メディアを通じて出会い、その後ゆっくりと恋をしたのです」。11カ月前に結婚したエサル・アリ氏と妻のシェイナはそう語る。(PHOTOGRAPH BY MATTHIEU PALEY, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 ここには招かれざる客は一人もいない。私たちの友人であるエマニュエルとジュリアンも、2人の娘を連れてフランスのパリからやってきた。「今の世界情勢のせいで、パキスタンで休暇を過ごすと言うと、皆にジョークだと思われたわ」とエマニュエルが言う。「私たちも心配になって、もう少しで旅行を取りやめるところだったの」

 しかし中止にしなくてよかったと彼女は言う。ここの光景は、彼女の想像をはるかに超えていた。

「フランスにいる人たちに、パキスタンの山村での生活を想像してみてと言ったところで、彼らがこんな光景を思い浮かべると思う? この場所に来て、私の中で何かが変わったわ。心が成長しているのを感じる」

 繰り返しここを訪れ、この親密なコミュニティーに触れるたび、私は謙虚な気持ちになる。現在、外の世界の変化が日々の暮らしと人間関係に徐々に浸透していく中で、ゴジャールは現代的な世界を受け入れながらも、昔ながらの伝統と人々の心を刺激する魅力を保ち続けている。なじみのない土地や、自分が悪い印象を抱いている土地を旅することは、人生に多角的な視点を与えてくれる。この場所の魅力が、より多くの人々に伝わるよう願っている。

パスー村の手前で、フンザ川にかかるつり橋を渡る旅行者。(PHOTOGRAPH BY MATTHIEU PALEY, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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