爆発寸前、謎の連星で数百万度の「風」を観測

時速960万kmを超える恒星風が衝突、銀河系で異色の巨星イータ・カリーナ

2016.10.21
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イータ・カリーナへの旅 銀河系内で7500光年離れたイータ・カリーナ星雲の中のイータ・カリーナは、太陽よりも明るい2つの恒星からなる巨大な連星系だ。(ESO, Digitized Sky Survey 2, A. Fuji, Nick Risinger (skysurvey.org), ESA/Hubble, T. Preibisch. Acknowledgement: VPHAS+ Consortium/Cambridge Astronomical Survey Unit. Music: Johan B. Monell (www.johanmonell.com))

 私が生きている間に超新星爆発を起こしそうな星を1つ挙げろと言われたら、オリオン座の赤色巨星ベテルギウスか、りゅうこつ座のイータ・カリーナ(りゅうこつ座イータ)を選ぶだろう。イータ・カリーナは、全天で最大クラスの非常に変わった恒星だ。

 米国西海岸の我が家から見るならベテルギウスの方が都合がいいが、イータ・カリーナの超新星爆発の規模は桁違いで、南半球では日中でも見えるだろうと言われている。(参考記事:「宇宙の時限爆弾、イータ・カリーナ」

 イータ・カリーナの超新星爆発の時期が間近に迫っているのは明らかだが、正確なところは分からない。運が良ければ今日にも爆発するかもしれないし、1万年も待たされるかもしれない。もしかすると、もう爆発してしまっているのかもしれない。イータ・カリーナは地球から7500光年ほど離れているため、数千年前の爆発の光が、まだ地球に届いていないだけという可能性はある。(参考記事:「歴史上最も明るい超新星爆発の記録を新たに発見」

 10月19日、ヨーロッパ南天天文台(ESO)の科学者らはチリの超大型望遠鏡(VLT)を使って、イータ・カリーナの詳細な観測に成功したと発表した。

 イータ・カリーナについて説明しようとすると、大げさな言葉ばかりを使うことになる。この星は、地球から比較的近くにある天体のなかでは最も明るく、最も重い。実は1つの星ではなく、太陽よりもはるかに大きい2つの星からなる連星系だ。主星は太陽の90倍以上の質量があり、ざっと500万倍の明るさだ。この巨大な主星のまわりを、太陽の30倍の質量をもつ伴星が公転している。これだけ大きな伴星なのに、主星の輝きに圧倒されて、1996年まで誰もその存在に気づかなかった。

 5年半に一度、伴星が主星に非常に近いところをかすめるときに、両方の星から物質が激しく吹き出し、星間空間は混沌とした状況になる。恒星風と呼ばれるこの風の速度は時速960万km以上になる。(参考記事:「時速420万キロ、宇宙最速の星を発見」

 イータ・カリーナは塵でできた巨大なイータ・カリーナ星雲に包まれているため、激しいダンスを繰り広げる連星を地球から見ることはできない。

イータ・カリーナ星雲の全体像と、その内部の2段階のクローズアップ画像。左のクローズアップ画像は、イータ・カリーナ星雲の中にある人形星雲。イータ・カリーナの不安定化した連星系から吹き出た物質によって形成されたもの。右のクローズアップ画像は、人形星雲の中にあるイータ・カリーナのまわりで衝突する猛スピードの風を新たにとらえた近赤外線画像。(PHOTOGRAPH COURTESY G. WEIGELT, ESO)
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崖っぷちの連星系

 イータ・カリーナ星雲の中には、比較的最近になって発見された人形星雲もある。(参考記事:「イータ・カリーナ、人形星雲の謎解明へ」

 1800年代、イータ・カリーナでは何度も爆発が観測され、一時は南天で最も明るく輝く星になった。この爆発によりガスと塵の巨大な雲が宇宙空間に広がり、1世紀以上が経過した今日でも、爆発の際に発生した“光のエコー”が研究されている。(参考記事:「150年前の恒星爆発、反射光を初観測」

 イータ・カリーナが次にいつ爆発するのか、どれほど巨大な爆発になるのかは分からないが、連星はぎりぎりのところで安定を保っている。ドイツ、マックス・プランク電波天文学研究所のゲルト・バイゲルト氏が率いる科学者チームは、最近、VLTをイータ・カリーナに向けて、連星の間の領域を詳しく観測した。

 この星間領域は比較的狭いため、詳細に観測するには4基の望遠鏡を組み合わせて使う必要があった。この観測で、イータ・カリーナの2つの星から吹き出す恒星風どうしが猛スピードで衝突し、両者の間の領域を数百万度まで加熱していることが明らかになった。また、粒子の衝突によって強烈なX線が生成し、説明のつかない奇妙な放射パターンを作り出していることも分かった。(参考記事:「白色矮星が赤色矮星を「攻撃」、奇妙な連星を発見」

 さらに、恒星風どうしの激突によってできた、予想外の扇形の構造も発見された。

 イータ・カリーナの連星系については未解明の点が多く、天文学者たちは、超新星爆発が起きてすべてが消滅してしまう前に謎を解いてしまいたいと願っている。その超新星爆発は非常に見ごたえがあるものになるだろうが、地球上の生命を危険にさらすおそれはないので、頭上を気にする必要はない。

 壮麗な天体ショーの始まりを、首を長くして待っていよう。

文=Nadia Drake/訳=三枝小夜子

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