『スター・トレック』がつくった未来

50年も続くSFドラマ、人気の秘密

2016.09.20
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第1回のテレビシリーズ。OK牧場でフォースフィールド(力場)に囲まれる乗組員たち。放映開始以来50年間、スター・トレックは物理学者、宇宙学者、数学者、化学者など実際の科学者からのアドバイスに忠実に従ってきた。(PHOTOGRAPH COURTESY CBS/NATIONAL GEOGRAPHIC BOOKS)
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 例えば、エンタープライズ号が星雲の中に隠れていたとしましょう。地上からただ星を眺めるしかない私たちにとって、星雲の中がどんな感じなのかを知ることは決してないでしょう。美しく色鮮やかな星の集まりを、私たちは外側からしか見ることができません。けれどもハリウッドは、星雲の内側の景色を見せてくれます。これらの雲は何なのか、どのようにしてできたのか、どう変化していくのか。本物の科学者が使っているコンピューターシミュレーションが基になっているのです。すごいことだと思いませんか。まるでその場にいるかのようです。

 もちろん、なかには創作が必要だった部分もあります。ワープやテレポーテーションは、スター・トレックの生みの親であるジーン・ロッデンベリー氏が今から50年も前に思いついたもので、物語を前に進めるためにはどうしても必要な装置でした。星系から星系へ移動するのに300年も400年もかかっていては、登場人物の寿命がいくらあっても足りませんからね。

――スター・トレックに登場するテクノロジーが、後に現実のものとなった例が多くありますね。

 まず思いつくのは、PADD(パッド)と呼ばれるデバイスです。キーボードがなく、指だけで操作します。現在、iPadやタブレットとして普及しています。不思議な感じがしませんか。夢の実現です。世界は芸術の模倣といってもよいでしょう。

 iPadやスマートフォン、腕に装着する医療機器が今のような形になっているのは、偶然ではありません。1966年に私たちがスター・トレックのなかで見たものばかりなのですから。

 音声認識ソフトもその一例です。劇場版「スター・トレックIV」(クジラが登場する話)のなかで、スコッティ(初期の日本語吹き替えではチャーリー)が、あるエンジニアリング会社を訪れる場面があります。そこでスコッティは、当たり前のようにコンピューターに話しかけます。ボーンズがマウスを差し出すと、今度はそれに向かって「ハロー、コンピューター」と話しかけてしまいます。

 コンピューターと会話ができる時代は、既に到来しています。話しかけるとコンピューターが音声を認識し、キーボードに触れることなく手紙やメールを書くことができるまでになりました。

 第1回のテレビシリーズには、四肢が麻痺した人物が登場します。大きくて頑丈そうな機械の中に入っていて、外から見えるのは彼の頭だけ。コミュニケーションは、ライトの点滅のみです。点滅2回は「イエス」、点滅1回は「ノー」という意味です。

 ところが、現代の世界を見てください。スティーブン・ホーキング氏は、コンピューターを介して会話ができます。ライトの点滅どころか、完全な文章で話すことができるのです。本まで書いてしまいます。現実の技術がスター・トレックを大きく追い越してしまった例です。しかも、300年も先に起こるはずだったことです。私たちは、1966年に製作者が予想していたよりも、はるかに遠いところまで、はるかに速いスピードで到達してしまったのです。

 つい最近受けた質問ですが、私たちはスター・トレックの真似をして、未来をそれに合わせて作ろうとしているのでしょうか。それとも、自然とそうなっていくのでしょうか。私は前者だと思います。大人気のSFドラマシリーズから、私たちは多大な影響を受けています。

――逆に作品が描く未来で、まだ実現していないものは何でしょうか。天文学、テクノロジー、あるいは一般的な科学の観点から、スター・トレックが予想を誤ってしまったものはありますか。

 何といってもワープです。どの科学者に話を聞くかにもよると思いますが、SF世界の域を出ることはないでしょう。確かに、とても小規模ですが研究室で実現の可能性を模索している科学者たちがいます。実現可能であることを示す方程式も存在します。

 だとしても、やはり無理でしょう。同じことがテレポーテーションにも言えます。粒子をひとつのシステムから別のシステムへ転送するという量子テレポーテーションは、実在します。いつの日か、物体の移動は実現するかもしれません。けれども、人間をテレポートさせるとなるとどうでしょう。生きているものを文字通り分子レベルまで分解して、それを再建する。そんなことを本当にやってみたいと思いますか。

――スター・トレックが他のSFと一線を画していることのひとつに、哲学的な傾向があります。命や宇宙など、すべてについて大変よく考えられているといわれます。これほど長く支持され、半世紀たった今でも新たなファンを獲得し続けているのは、そのためではないでしょうか。

 確かに、あらゆる世代にわたって異なるファン層が存在し、誰にとっても魅力的な何かがあるのだと思います。よく考えられているからこそ、これほどたくさんの人を魅了しているのでしょう。科学にさほど興味がなくても、スター・トレックのファンだという人は多いです。人類にとって明るい未来が待っているというメッセージが支持されるのです。問題や困難を乗り越えて、国家や文化、人種が入り混じっている世界。スター・トレックが見せてくれる人類の未来は、それらをすべて乗り越えた先にある世界なのです。

 境界線を押し広げて未知の世界を探検してみたいという願いと情熱は、人間のDNAに深く刻み込まれているものだと思います。誰も行ったことのない場所へ行ってみたいという願い。大洋を越えて行かなければ、ヨーロッパ人が北米大陸に到達することはありませんでした。スター・トレックの舞台は、ひとつの大陸やひとつの惑星に限定されていません。天の川銀河全体、そしてその先へと広がっています。

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スター・トレック
オフィシャル宇宙ガイド

価格:本体2,400円+税
アンドリュー・ファゼーカス 著
サイズ:248mm×194mm
240ページ、ソフトカバー

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