パンダ「絶滅危惧種」解除は正当か、専門家に聞く

一方でヒガシゴリラは近絶滅種に、IUCNレッドリスト最新版

2016.09.08
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アトランタ動物園のジャイアントパンダ。白と黒の特徴的な外見を持つジャイアントパンダの野生の個体数はゆっくりと回復しつつある。(Photograph by Joel Sartore, National Geographic Photo Ark/Zoo Atlanta)
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 半世紀にわたって世界の野生生物保護のシンボルを務めてきたジャイアントパンダを救おうとする努力が報われつつある。9月4日、ジャイアントパンダが絶滅危惧種(endangered)の指定から解除されたと国際自然保護連合(IUCN)が発表した。

 中国の竹林を原産とするジャイアントパンダは、絶滅の恐れのある生物を記載したIUCNの「レッドリスト」で、絶滅危惧種(endangered)から危急種(vulnerable)に引き下げられた。更新された最新のレッドリストには、8万2954種の生物が含まれており、そのうち2万3928種に絶滅の恐れがある。

 中国政府の調査によると、野生のジャイアントパンダの個体数は着実に増えつづけており、2014年までの10年間でおよそ16%増加した。中国全土において、2014年時点の野生のジャイアントパンダは約1850頭、前回調査が行われた2003年は約1600頭だった。

「パンダにとってすばらしい日になりました。私たちも興奮しています」と言うのはWWFの野生保護部門の上級副代表を務めるジネット・ヘムリー氏だ。この非営利組織はロゴにジャイアントパンダを使っている。

 1990年に絶滅危惧種(endangered)に指定されたジャイアントパンダの保護が効果を上げている背景には、2つの理由がある。1980年代に横行していた密猟が著しく減少したことと、パンダの保護区域が大きく広がったことだ。

スマトラオランウータン(写真は米ローリングヒルズ動物園で撮影)とボルネオオランウータンは近絶滅種(critically endangered)に指定された。(Photograph by Joel Sartore, National Geographic Photo Ark/Rolling Hills Zoo)
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 現在、中国には67カ所のパンダ保護区域がある。これは米国の国立公園と同等だとヘムリー氏は話す。さらに、過去数十年にわたって毛皮目当てに乱獲され、絶滅危惧種(endangered)に指定されていたチルー(チベットアンテロープ)の数も回復しているという。現在、チルーもレッドリストで近危急種(near threatened)に変更されている。(参考記事:「チベットの"謎の動物"チルーの繁殖地を発見」

 非営利組織コンサベーション・インターナショナルの上級科学者、M・サンジャヤン氏は「これは、しかるべき位置だと言えます。中国政府はパンダを絶滅させまいと30年間懸命な保護活動を行ってきました」

 しかし、中国の臥龍(ウォロン)自然保護区で環境保全や持続可能な開発に関する助言を行っている上級顧問のマーク・ブロディ氏は、「野生環境でパンダが実際に増加しているという結論を出すのは早急です」と話す。「野生のパンダを数える技術が発達しただけかもしれません」

特集「パンダを野生の森へ」

 ブロディ氏はこう続ける。「中国政府の取り組みは称賛に値しますし、飼育されているパンダ、野生のパンダ両方に対する最新の管理技術の発達にも貢献しています。ただ、絶滅危惧種から引き下げるだけの十分な理由があるとは思えません」

「実際、『維持可能』な質の高いパンダの居住区は減り続けています。道路の建設、四川省で活性化する観光事業開発など、人間の経済活動による断片化が原因です」

20年で70%減ったゴリラ

ニシローランドゴリラも近絶滅種(critically endangered)に指定されている。米グラディス・ポーター動物園で撮影。(Photograph by Joel Sartore, National Geographic Photo Ark/Gladys Porter Zoo)
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 一方で、私たちの親戚にあたる種に関する厳しい現実も突きつけられている。現存する霊長類最大の動物であるアフリカのヒガシゴリラは、ここ20年で個体数が70%減少しており、近絶滅種(critically endangered)に指定された。(参考記事:「ゴリラ殺害事件の真相」

 IUCNの国際哺乳類評価プログラムを取りまとめているカルロ・ロンディニニ氏は、「大型類人猿で絶滅の危機に瀕していないのは人間だけです」と言う。

 個体数の減少は、商取引や食肉のための密猟、大規模な野生動物の生息地の破壊によるところが大きい。

「私たちは、もっとも自分たちに近い種がすっかり忘れ去られてしまうほどに食べ尽くそうとしているのです」。サンジャヤン氏はそう表現する。

養母に抱きつくボルネオオランウータンの赤ちゃん。この母はボルネオオランウータンとスマトラオランウータンの交配種。(Photograph by Joel Sartore, National Geographic Photo Ark)
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 ヒガシゴリラの亜種であるヒガシローランドゴリラにとって最大の問題は密猟だ。1994年には1万7000頭ほどだったが、2015年には4000頭未満と急激に減少している。(参考記事:「中央アフリカのゴリラ、10年で絶滅?」

 今回のレッドリストの改訂にあたって、ヒガシローランドゴリラの項目の主著者を務めたのは、野生動物保護協会でウガンダ・プログラムを担当する上級自然保護担当官のアンドリュー・プランプトリ氏だ。同氏は次のように記している。「近絶滅種(critical endangered)に指定されたことでこのゴリラの認知度が上がり、惨状にも注目が集まるでしょう。ヒガシローランドゴリラは世界最大の類人猿のひとつですが、アフリカではほとんど注目されていません」

 また、この報告書には、「侵入生物種の破壊的影響」についても記載されている。レッドリストによれば、ハワイ原産の415種の植物のうち、87%が絶滅の危機に瀕している。IUCNのハワイ原産植物スペシャリスト・グループのメンバーであるマット・ケア氏は「植物が失われれば、かけがえのない貴重な文化が失われることになります」と話す。(参考記事:「米がハワイの海洋保護区を拡大、日本国土の約4倍に」

気候変動で生息地の環境変化も

 WWFのヘムリー氏によると、明るい知らせの1つは、ヒガシゴリラの亜種であるマウンテンゴリラの個体数がさほど大きく減少していない点だ。これは、コンゴ民主共和国、ウガンダ、ルワンダで行われているエコツーリズムによるところが大きい。(参考記事:「コンゴ民主共和国 国立公園ビルンガの闘い」

密猟のせいでサバンナシマウマは低危険種(least concern)から近危急種(near threatened)に引き上げられた。ここ14年で、個体数が24%減少している。米アトランタ動物園で撮影。(Photograph by Joel Sartore, National Geographic Photo Ark/Zoo Atlanta)
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 しかしながら、依然としてマウンテンゴリラの個体数はとても少なく、1000頭に満たないという。(参考記事:「マウンテンゴリラ個体数増加、ルワンダ」

 同じように、2000頭に満たないジャイアントパンダも危険な状態を脱したとは言いがたい。ヘムリー氏はそう警告する。ある予測によれば、気候変動によって今後80年でパンダが住む竹林の30%が失われる可能性がある。

コシキダイカーは近危急種(near threatened)に指定されている3種のアフリカのアンテロープのひとつだ。違法な狩猟と生息地の破壊によって数が減り続けている。米グラディス・ポーター動物園で撮影。(Photograph by Joel Sartore, National Geographic Photo Ark)
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 決して現在の状況に満足するわけにはいかないのはそのためだ。ヘムリー氏も自然保護とは「長期的な努力」と話している。

 コンサベーション・インターナショナルのサンジャヤン氏も同じ意見を持っている。「小さな勝利を祝うことはできますが、この戦いは続けなければなりません」

 IUCN事務局長のインガー・アンダーセン氏は、パンダの数の回復は、何よりも「自然保護が功を奏している」ことを示していると話す。「私たちは、生命の指標の針を動かすことができるのです」

その他の2種のダイカーのうち、セスジダイカーの数は保護区では安定しているが、それ以外の地域では激減している。米エレン・トラウト動物園で撮影。(Photograph by Joel Sartore, National Geographic Photo Ark/Ellen Trout Zoo)
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文=Christine Dell'Amore/訳=鈴木和博

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