太古の絶滅フクロライオン化石を発見、新種

サイズは大型リスほど、ほかに絶滅「超肉食」フクロネコも発見

2016.08.22
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ミクロレオ・アッテンボローイ(Microleo attenboroughi)の想像図。(ILLUSTRATION BY PETER SCHOUTEN)
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 酢は便利な液体だ。料理だけでなく、絶滅動物の発見にも使える。主成分である酢酸が、岩石から化石を取り出す化学処理に広く用いられている。このほど、オーストラリアの古生物学者が、この方法を用いて、石灰岩の塊から大昔に絶滅した2種の有袋類の歯と顎の化石を取り出すことに成功した。

 まず、顎の化石の持ち主は、ティラコレオ(フクロライオン)科の肉食有袋類の新種であることが判明した。これまでに発見されている近縁の動物に比べて非常に小さく、ハイイロリス程度の大きさだったと考えられる。

 化石を発見し、新種であることを同定したオーストラリア、ニューサウスウェールズ大学の古生物学者アンナ・ギレスピー氏は、「あまりにも小さいので、本当に驚きました」と言う。(参考記事:「ティラコレオの想像図」

小さいけれど強力な顎

 先史時代に絶滅したティラコレオ科の動物は、今日のコアラやウォンバットに近い有袋類で、現時点ではティラコレオ・カルニフェクス(Thylacoleo carnifex)を筆頭に9種が発見されている。

 つい4万6000年前までオーストラリア大陸に生息していたティラコレオは、咬む力が非常に強いことで知られる。体重あたりの咬む力の強さは、今日のライオンやハイエナよりも強かったと推測されている。

オーストラリアの石灰岩の中から見つかったミクロレオの歯の化石。(PHOTOGRAPH BY ANNA GILLESPIE)
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 今回、ティラコレオ科に新たに加わったミクロレオ・アッテンボローイ(Microleo attenboroughi)は、著名な博物学者デビッド・アッテンボロー氏にちなんで命名された。古生物学の電子ジャーナル『Palaeontologia Electronica』7月号に発表された研究によると、今回発見された新種は約1800万年前に生息していたT. carnifexの小型版であるという。T. carnifexの体重が100kgであるのに対して、ミクロレオは約600グラムと、かなり小さい。

 ギレスピー氏らは、オーストラリアの世界遺産リバースレー哺乳類化石地域の石灰岩の中から見つかった顎の一部の化石を用いて新種を同定した。

 石灰岩の中で化石化した歯は、長い年月の間に周囲の岩石が少しずつ水に溶かされたことで露出した。岩塊から突き出た歯の一部をボランティアが発見し、ギレスピー氏が酢酸を使って残りの石灰岩を溶かして全体を取り出した。

 歯は哺乳類の種の特定に用いられることが多いと、今回の研究には関与していないニューイングランド大学の古生物学者スティーブ・ロウ氏は言う。なかでも歯の形状は、その動物が何を食べていたかなど、古代の生態系にどのように適応していたかを知るための手がかりとなる。「大臼歯は他の歯よりも複雑であるため、より多くの情報が得られます」と彼は言う。

 今回発見された左右の顎の小臼歯と大臼歯の形状からは、ミクロレオが樹上で暮らしながら他の小さな生物を食べる捕食者だったことが分かる。「安全な木の上に住んで、あらゆる小動物を食べていたのでしょう」とギレスピー氏。

 とはいえ現時点では、分からないことの方が多い。この小さな肉食動物の存在を裏付ける証拠は、今回ギレスピー氏が発見した歯しかないからだ。ミクロレオの個体数は当時から非常に少なかったのかもしれないし、探せばもっと化石が見つかるのかもしれない。ギレスピー氏のチームは発掘好きの集まりなので、化石探しは一向に苦にならないだろう。

「この化石だけでも、こんなに興味深いのです」と彼女は言う。「もっと探しに行きたくなります。探して、探して、いつか頭骨が見つかったら、すばらしいでしょうね」(参考記事:「シベリアで氷河期の絶滅ライオン見つかる」

百獣の王

 もう1つ見つかった歯の化石は、別の新種の有袋類ホーリードーレイヤ・トムンパトリコルム(Whollydooleya tomnpatrichorum)のものだ。属名は、化石が発見された場所であうホーリー・ドゥーリー・ヒル(Wholly Dooley Hill)、種小名は、リバースレーのベテラン研究者トム・リッチ氏とパット・リッチ氏の名前にちなんでいる。

古代の肉食動物ホーリードーレイヤ・トムンパトリコルム(Whoolydooleya tomnpatrichorum)の想像図。(ILLUSTRATION BY PETER SCHOUTEN)
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 ギレスピー氏は、ナショナル ジオグラフィック協会の助成金を受けているマイケル・アーチャー氏や、ミクロレオに関する論文の共著者であるスザンヌ・ハンド氏らとともに、『ビクトリア博物館紀要(Memoirs of Museum Victoria)』に、この動物に関する論文を発表した。

 ミクロレオの特徴が小さいことだとすれば、ホーリードーレイヤは刃物のような歯が特徴だ。

 研究チームが発見したのは1本の歯だけだったが、ロウ氏によると、その歯冠は肉を切断するためにしか役に立たない形をしていて、ホーリードーレイヤが「超肉食動物(hypercarnivore:食物の75%以上を肉が占めているような肉食動物)」だったことを示しているという。

 アーチャー氏は、この動物の口は臭くなかっただろうと考えている。このような形の歯には、腐敗して口臭の原因になる食べ物のかすが付着しにくいからだ。(参考記事:「歯の汚れが古代人の暮らしを解き明かす」

 1200万~500万年前に生息していたホーリードーレイヤはフクロネコ科に分類された。フクロネコ科の有袋類は、タスマニアデビルなど60種以上が知られているが、ほとんどが小さく、ネズミほどの大きさだ。

 けれどもホーリードーレイヤは、これまでに知られている仲間とは大きく異なっている。研究者は、その体重は約23kgで、現代のタスマニアデビルの2~3倍の大きさだったと推定している。アーチャー氏は、この地域の多くの動物にとって、凶悪な歯と大きな体を持つホーリードーレイヤは恐ろしい存在だっただろうと考えている。(参考記事:「類人猿ギガントピテクス、大きすぎて絶滅していた」

「ホーリードーレイヤは、この一帯の『百獣の王』だったと思われます。食べたいと思った動物は、なんでも捕まえて食べることができたでしょう」

 しかし、ホーリードーレイヤがミクロレオを食べることはなかったはずだ。彼らが生きた時代は何百万年もずれていたからだ。それでも、両方の化石動物を一緒に調べることで、オーストラリアの古代の気候の変化について多くの事実を知ることができる。(参考記事:特集オーストラリアの絶滅哺乳類「巨獣はなぜ消えた?」

 ミクロレオが発見されたネビルズガーデンという発掘現場は、化石の中に石筍が保存されていることから、かつては熱帯雨林の洞窟内の水たまりであったと考えられている。

 一方、より新しいホーリードーレイヤが発見されたホーリー・ドゥーリー・ヒルの堆積物は、この動物が乾燥した時代に土中に埋もれたことを示している。2つの化石から得られる情報を組み合わせることで、オーストラリア大陸が中新世に湿潤な気候から乾燥した気候へと移行したという理論を裏付けることができる。

 科学者たちがリバースレーの周辺でもっと多くの化石を発見すれば、オーストラリア大陸の乾燥とともに何が起きたかを知ることができる。古代の気候変動で生物がどうなったのかを知ることは、気候変動が加速している現代の絶滅を理解する上で欠かせない。

 ミクロレオやホーリードーレイヤが絶滅した原因はまだ分からないが、アーチャー氏は「気候変動は、常に絶滅の主な原因です」と言う。(参考記事:「マンモスを絶滅させたのは人間か? 気候変動か?」

文=Aaron Sidder/訳=三枝小夜子

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