【解説】ジカ熱に未知の経路で感染、米国

これまで知られている感染ルートではなかった

2016.07.21
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ジカ熱を媒介する蚊の1つ、ネッタイシマカ。ブラジル、レシフェにあるオズワルド・クルス財団(通称フィオクルス)による顕微鏡写真。(PHOTOGRAPH BY FELIPE DANA, ASSOCIATED PRESS)
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 米国ユタ州で、ジカ熱患者を看護していた家族がジカ熱を発症した。しかし、感染経路はこれまで分かっている性交渉、妊娠、蚊による媒介のうちいずれでもなかった。

 ユタ州保健局と米国疾病予防管理センター(CDC)は18日、この症例について発表、ジカウイルスの危険性がまだ完全には解明されていないことをあらためて印象付けた。

 両機関は立て続けに開いた記者会見で、ジカ熱に感染した高齢の男性患者の「家族である感染疑い者」1人がジカ熱を発症したと発表した。先に発症した高齢の患者は6月に死亡し、米国本土初のジカ熱関連死であることが死後に分かっている。発表によれば、感染疑いの家族は高齢患者の看護を手伝っており、発疹と発熱という軽いジカ熱症状が出たが、すでに回復している(両機関とも、この人物の身元を非公表としたが、ウォールストリート・ジャーナルは高齢男性の息子だと報じている)。

 発表では、亡くなった高齢男性はジカ熱の流行地域に旅行し、おそらくそこで感染したとされた。しかし、この高齢男性のウイルスが、蚊を介して別の人に伝播したとは考えにくい。ユタ州は西ナイル熱ウイルスを抑え込むために蚊の捕獲と検査を実施しているが、ジカ熱を媒介するとされる2種の蚊はいずれも見つかっていないからだ。

 ソルトレーク郡保健局の保健衛生官、ゲーリー・エドワーズ氏は記者会見でこう語った。「異例のケースです。看護に関わった人物には、ジカ熱についてこれまで確認されている危険因子が何もありません」(参考記事:「ジカ熱52カ国へ、胎児の脳組織を破壊と報告も」

「際立って多量」のウイルス

 ほかに説明がない以上、この人物は専門家たちがいまだ確認していない経路、おそらく体液への暴露で感染したという可能性が出てくる。ジカウイルスはこれまで、血液、精液、尿、唾液、子宮の頸管粘液、母乳、眼球内の房水から検出されている。輸血での感染例は今のところないものの、CDCは輸血によるジカ熱感染がありうるものとして行動するよう、血液バンクに注意を促している。

 CDCでジカ熱への対応に当たっている医師のサティーシュ・ピライ氏は記者会見で、「重症の高齢患者と家族との接触が、家族の発症にどう関係したのか特定に努めているところです」とコメント。「まだ全て解明できたわけではありません」

 亡くなった高齢男性には基礎疾患があったが、公式発表では具体的に明かされず、死亡は「ジカ熱と関連があるが、必ずしも直接の原因ではない」と慎重な表現がなされた。死後の検査で、この男性の血中のジカウイルスが、過去の症例で検出された量の10万倍あったことが判明。CDCは「際立って多量」だとした。

 したがって、通常よりはるかに多いウイルスを有していたこの男性の血液は特別に感染力が強く、他の体液も同様の状態だったのかもしれない。一方、CDCは18日の時点では、この男性の体内でウイルスが大量に増殖したのは元からもっていた疾患のせいか、遺伝的要因か、あるいはジカウイルス株のせいかはまだ分からないと述べた。

「ウイルス量の多さは非常に懸念すべきことです。それに、長年の治療経験がある疾患というわけでもありません」。CDCの院内感染予防担当部門の副部長で医師のマイケル・ベル氏は報道陣にこう語った。「重病にかかって衰弱した人なら、免疫系が弱ってウイルスとも戦えなくなっていた可能性があります。一方、ウイルス量の高い人なら、ウイルス感染自体の結果としてより重症化するかもしれません」(参考記事:「ジカ熱拡大の経緯と注意すべきこと」

【フォトギャラリー】ブラジルでジカ熱との闘いを撮影13点

血液疾患との関連も

 亡くなる前、高齢男性は血小板減少症を発症していた。感染症で起こることがあり、内臓、口、鼻、切り傷からの出血の原因となる。先週、プエルトリコの医師らは、同国のジカ熱患者2人が血小板減少症を患い、うち1人が「出血により死亡した」と報告している。

 このとき亡くなったのは、高血圧だった72歳の男性。海外領土も含めた米国で初のジカ熱関連症候群による死者だった。ほかにも、ジカ熱に関連する血液疾患の発症や死亡がコロンビア、スリナム、ポリネシアで報告されている。プエルトリコの患者2人を担当した医師は、2人ともデング熱と誤診され、出血性疾患を発症するまでジカ熱と認識されていなかったことから、注意を要する感染症だと訴えている。(参考記事:「気候変動がもたらす夏の8つの脅威」

 ジカ熱感染と体液との関連は警戒すべき要素かとの質問に、CDCの担当者は「米国では現時点で1306件のジカ熱症例が確認されていますが、人から人への感染はごくわずかしかありません」と答えた(この中には、ジカ熱が男性の性的パートナーから女性にだけでなく、女性から男性にも感染しうるという今月15日に発表された例も含まれている)

 CDCのベル氏は、エイズの感染拡大以来、体液接触に対する「標準予防措置」をどの医療機関も実施していることから、医療従事者はすでに感染予防を十分行っているはずだとした。

「現在、個人防御用具(PPE)使用の指示に変更はありません」とCDCのベル氏。「今回の件で強調されたのは、ジカ熱のように患者のうちかなりの割合が無症状の感染症が流行した場合、標準予防措置の順守がこれまで同様に大切だという事実です。いちかばちかの賭けには決して出るべきでない非常に良い例です」

 同時に、一般の人々が感染を過剰に恐れる理由はないとピライ氏は話す。「現在、くしゃみや咳、日常的な体の接触、キス、抱擁、あるいは家庭用品の共用でジカ熱がうつるという証拠はありません。ユタ州の例で看護に関わった人物がなぜ感染したのかはまだ正確に分かっていませんが、伝播の主要なメカニズムが蚊の媒介であることははっきりしています。この点で一般の人々には安心してほしいと思います」(参考記事:「インタビュー:長崎大学 熱帯医学研究所 新興感染症学研究室」

文=Maryn McKenna/訳=高野夏美

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