米国コロラド州デンバー郊外の保安官代理が信じられないような通報を受けた。1頭のアメリカクロクマが勝手に車に侵入し、閉じ込められているというのだ。
この奇妙な出来事は映像に収められ、ジェファーソン郡保安官事務所が7月12日にYouTubeに投稿した。映像の舞台はコロラド州ゴールデンにある民家の敷地内。とまっているスバル車に、通報を聞いて駆けつけた保安官代理たちが、困惑した様子で近づいていく。「どうやって入ったのかな? ガラスは割れていないようだ」と、1人が状況を説明する。
保安官事務所の広報担当者ジェニー・フルトン氏によれば、車のドアは閉まっていたが、ロックはされていなかった。クマは11日の夜の間に、どうにかして車内に入り込んだようだという。
車の警報装置は作動したものの、自宅にいた持ち主は翌朝になってから様子を見に行った。クマは車内で数時間にわたって暴れたようで、内装は引き裂かれ、ドアの取っ手はすべて壊れてしまった。こうしてクマは、自分を車内に閉じ込めたというわけだ。
保安官代理たちは到着から15分ほどで車の最後部のドアを開けると、クマは森の中へと走り去った。(参考記事:「【動画】前脚を失ったクマ、二足歩行で元気」)
「とにかく奇妙な出来事でした」とフルトン氏は話す。
人間とクマの「ニアミス」が増加
車に忍び込むクマはめったにいないが、クマと遭遇したという報告が当局に入るのは珍しいことではない。コロラド州には1万7000~2万頭のアメリカクロクマが生息している。その一方で、人口も急増しているため、クマの生息地から近い地域も次々に開発され、人とクマが出会う機会が増えているのだ。(参考記事:「クマと人の遭遇が急増、北米」)
コロラド公園・野生生物管理局の広報担当者マット・ロビンズ氏によれば、コロラド州では「人とクマの衝突」が毎年4%のペースで増え続けているという。人とクマの衝突とは、クマが人と接触または接近し、危険な状況になった場合をさしている。
「クマが車に入り込む事例は、少なくとも年に2件は起きています」とロビンズ氏は話す。「クマの生息地から近い場所に暮らす人やキャンプをする人は、すべてのドアに鍵をかけるよう勧めています。クマはとても頭のいい動物ですから」
問題は車だけにとどまらない。ロビンズ氏によれば、クマは嗅覚が鋭く、においにつられて市街地に現れる。人間の食べ物やごみを食べて、味をしめてしまったクマたちについては、遠く離れた場所に移したり、安楽死させたりといった対処を余儀なくされているという。(参考記事:「人を襲ったクマは殺されるべきか」)
ロビンズ氏とフルトン氏は、人とクマの遭遇を減らすための対策として、可能な限り屋外に生ごみを放置しないこと、そしてクマと安全な距離を保つことを呼びかけている。
「クマの生息地に立ち入らないこと、クマにとっての誘惑を最小限に抑えることは、自然と共存する私たちの責任です」とロビンズ氏は話す。「自分の目で野生生物を見れば、距離を置きたくなるはずです」(参考記事:「森の精霊 スピリット・ベア」)