世界で初めて発見された、水陸両生のムカデ。オオムカデ属の新種で、Scolopendra cataracta(スコロペンドラ・カタラクタ)と命名された。(PHOTOGRAPH BY WARUT SIRIWUT)
世界で初めて発見された、水陸両生のムカデ。オオムカデ属の新種で、Scolopendra cataracta(スコロペンドラ・カタラクタ)と命名された。(PHOTOGRAPH BY WARUT SIRIWUT)
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 水の中に入れば恐ろしいムカデに襲われずに済むと思ったら、大間違いだ。そこには泳ぎが得意な巨大ムカデがいるかもしれない。

 世界で初めて水陸両生のムカデが新種として記載され、2016年5月、その詳細が学術誌『ZooKeys』に掲載された。新種のムカデはオオムカデ属の一種で、最大で体長20センチほどになる。

 一般的なムカデと同じく、彼らも肉食で毒をもっている。生息域は東南アジアに限られているとみられる。(参考記事:「最多750本足のヤスデ、米国で再発見」

新婚旅行で発見

 英国ロンドン自然史博物館の昆虫学者、ジョージ・ベッカローニ氏は2001年、新婚旅行でタイを訪れた。そして熱心な昆虫学者の例に漏れず、彼も現地で昆虫を探し回った。

「世界中どこへ行っても、決まって小川沿いにある石をひっくり返してみるのですが、このムカデを見つけたのも、やはりそうした石の下でした。体が非常に大きくて脚が長く、緑がかった黒という不気味な体色をしていました」とベッカローニ氏は話す。

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 ベッカローニ氏が石を持ち上げたとき、隠れていたムカデは森の中ではなく、川の中へと逃げ去った。流れに沿って川底を走ると、石の下に身を隠した。

 ベッカローニ氏はなんとかそのムカデを捕まえ、水を張った大型の容器に移した。するとムカデはすぐに底まで潜り、ウナギのように体をくねらせながら力強く泳いだという。容器から取り出すと、その体からは水が抜けて、ムカデは完全に乾いた状態になった。

 ベッカローニ氏はこれを標本としてロンドン自然史博物館へ持ち帰り、専門家に意見を求めた。しかしこのときは、懐疑的な反応しか得られなかった。オオムカデはそれまで乾いた場所でしか見つかっておらず、水陸両生のムカデの存在も知られていなかったからだ。そうした事情から、この標本は博物館のコレクションの中に長い間埋もれて過ごすことになった。

晴れて「新種」に

 一方、ベッカローニ氏と同じ博物館に勤務するグレゴリー・エッジコム氏は、タイにいる教え子のワルット・シリウット氏と共に、あるムカデを新種として記載しようとしていた。

 二人はラオスにある滝の周辺で標本を2点採集し、DNA分析によってこれが新種であることを確認した。ムカデの学名はScolopendra cataracta(スコロペンドラ・カタラクタ)と定められた。カタラクタはラテン語で「滝」を意味する。

 ベッカローニ氏が以前タイで採集した水陸両生のムカデのことをエッジコム氏に話したところ、この標本もスコロペンドラ・カタラクタであることが二人によって確認された。

 スコロペンドラ・カタラクタの標本は、これまでに4点しか見つかっていない。ラオスで採集された2点、ベッカローニ氏がタイの川で見つけた個体、そして4点目は、1928年にベトナムで採集されてロンドン自然史博物館に収蔵されていた個体で、それまで誤って一般的な種として分類されていた。

 ベッカローニ氏は、今回の新種が他のムカデとは異なる生態的地位をうまく利用しているのだろうと考えている。

「他のオオムカデは陸上で獲物を捕まえます。この新種はきっと夜間に水に入り、水生あるいは水陸両生の無脊椎動物を狩っているのでしょう」

 他のムカデ類と同様、スコロペンドラ・カタラクタも毒をもつ。かまれてみたいという人はいないだろうが、たとえかまれたとしても、おそらく死ぬことはないだろう。ただし、猛烈な痛みは覚悟した方がいい。

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「大型のオオムカデにかまれれば、かなり痛いはずです。毒液を注入する“牙”は、人間の肌に突き刺さるほど強いですから」とエッジコム氏は言う。

 今回の新種ぐらい大きい近縁のムカデにかまれて、指や足先に毒を注入された場合、腕や脚全体に焼けつくような痛みが広がることもある。痛みは数日間続くが、長く引きずるような影響はないそうだ。

 水陸両生のムカデなど、悪夢のような存在だと思う人もいるだろう。夜にひと泳ぎしたいと思っても、川には巨大なムカデが潜んでいるかもしれないのだから。

 しかしベッカローニ氏やエッジコム氏のような学者にとって、こうした新発見は、私たちがまだまだ知らない自然の驚異がたくさんあることの証しだ。(参考記事:「初の水陸両生の昆虫、ハワイで発見」

 ベッカローニ氏は言う。「熱帯の川での調査は通常、昼間に行われますが、夜には昼とはまったく種類の異なる、水陸両生の興味深い生物群が見られるのではないでしょうか。こうした川の動物相を詳しく調べ、闇の中で実際に何が起きているのかを見てみたいものです」

文=Mary Bates/訳=北村京子