アリはなぜ無視?アリの餌を盗むチョウ、初の事例

不思議と攻撃されないチョウ、アリへの知られざる寄生の形か

2016.06.21
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ペルーアマゾンで、タケノコの先端から蜜を吸うチョウをアリが調べている。チョウの翅の赤い斑点は、アリの形と色を模しているのかもしれない。(PHOTOGRAPH BY PHIL TORRES)
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 数年前の蒸し暑い午後、ペルーアマゾンにいたフィル・トーレス氏は何かが動いたのを目に留めた。見ると、チェリースポット・メタルマーク・バタフライ(Adelotypa annulifera)が何本ものタケノコの先端に止まり、染み出る蜜を吸っていた。(参考記事:「ペルー 先住民たちの豊かな森へ」

 観察してみると、トーレス氏は奇妙なことに気がついた。通常、チョウが蜜を吸うのはわずか数秒から長くて1分だが、このチョウはずいぶん長く蜜を吸っている。それどころか、続けて調べてみると何時間にもわたって蜜を吸い続けていた。

 さらに不思議なのは、タケノコをすみかにしているアリが、普通なら他の虫がやってくると追い払うのにチョウの存在を無視していたことだった。

 タケノコが花以外の場所から蜜を出すのは、他の昆虫を追い払うボディーガードとしてアリを集めるためだと考えられている。餌の横取りは動物界では珍しくないが、成虫のチョウがこのようにアリから食物をくすねるのを発見した例はこれが初めてだった。(参考記事:「アカシア、樹液でアリを奴隷に変える」

「素晴らしい。こんな現象は見たことがありません」とトーレス氏は話す。同氏は米カリフォルニア大学バークレー校のアーロン・ポメランツ氏との共著で、今回の発見を学術誌「Journal of the Lepidopterists' Society」6月号に発表した。(参考記事:「【動画】人の声で触角を伸ばすイモムシが見つかる」

空飛ぶ蜜泥棒

 このチョウ、A. annuliferaの幼虫が栄養のある粘液を出し、餌としてアリに提供するのと引き換えに捕食者から守られていることは、生物学者の間ではすでに知られていた。

 だが幼虫が成虫へと変態を遂げたら、すぐに飛び立たなければならない。さもないと、それまで共生していたアリがチョウを食べようと攻撃してくるからだ。そして、その後に成虫が何をするか、たとえば、どのように交尾をし、何を食べるのかといった生態については未解明の点が多かった。

 トーレス氏の観察に加え、昆虫学の博士研究員であるポメランツ氏が研究を重ねた結果、ようやくその行動の一端が明らかになった。チョウの成虫たちは何らかの方法でアリから食物を失敬しているらしい。

「その上、アリたちは堂々と蜜を盗むチョウを無視しているか、そもそも全く気付いていないようです」と、ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラーでもあるポメランツ氏は言う。(参考記事:「アリが「公衆トイレ」を持つと判明」

 米フロリダ大学の鱗翅類研究者で、この研究には関わっていないアンディー・ウォーレン氏は、「攻撃的な性格と刺されたときの痛みから『ジャングルで最も凶悪なアリ』と呼ばれるサシハリアリでさえだまされています」と驚く。(参考記事:「巣を“発射”して狩りをするクモ」

研究者らは初め、このチョウがアリから守ってもらう代わりに液状の餌を与えているのかと考えた。だが、注意深く観察してもそのようなやり取りはみられなかった。(PHOTOGRAPH BY PHIL TORRES)
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「アリは通常、タケノコを自分たちの城のように扱っています。侵入者が来れば激しく攻撃して追い払ってしまいます」とポメランツ氏。

 トーレス氏らが記録した中には、チョウがアリの大あごから蜜のしずくをじかにかすめ取っていく場面すらあった。このような行動が確認されたのは初めてのことだ。

チョウの手口は謎のまま

 チョウがどのように蜜泥棒をやりおおせるのかは分かっていない。アリに感知されないように化学的シグナルを出しているのかもしれない。あるいは分かっていないだけで、アリはチョウから見返りを得て、共生しているのかもしれない。(参考記事:「アリとチョウと植物の知られざる共生関係を発見」

 別の点からこの発見に好奇心を刺激された研究者もいる。米ボストン大学で昆虫学を専攻する博士課程修了後の研究者、スーザン・フィンクバイナー氏だ。チョウの翅の模様に詳しい同氏は、今回発見されたチョウとアリの写真を初めて見て、A. annuliferaの翅の斑点がアリに非常によく似ていることに気付いた。

 今回の研究には関わっていないフィンクバイナー氏は、「私にはまさしく擬態に見えます」と話す。

 トーレス氏とポメランツ氏は、「アリの視力の弱さを考えると、翅の模様はアリに対するカムフラージュにはならないのでは」と否定的だ。むしろ、蜜を吸っている最中のチョウが他の動物に捕食されないよう防御する役割があるのかもしれないという。

 フィンクバイナー氏とウォーレン氏はこの「独特な」行動について、A. annulifera以外のチョウも同じことをするのかどうかも含め、まだまだ疑問が多いと話している。

「熱帯では何があっても不思議ではありません」と、フィンクバイナー氏は笑った。

文=Carrie Arnold/訳=高野夏美

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